ふるはしかずおの絵本ブログ3

『はなとひみつ』- ブラックユーモアのあるファンタジー

星新一(1926- 1997 )のショートショート。絵は、和田誠(1936-2019 )です。

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ハナコちゃんは、花が大好きな女の子です。いつも世界中が花いっぱいになるといいなって思っていました。

ある日、

モグラを馴らして、モグラに草木の世話をさせることを考えました。

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ハナコちゃんは、その思いつきを絵に描きました。

すると・・・

風が吹いてきて、

ハナコちゃんの絵は、飛ばされてしまいました。

カモメが、その絵をくわえて海の上を飛びます。しかし、カモメは気がつきました。

「なあんだ。ただの かみきれじゃないか。」

カモメは、絵を放しました。

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その絵は、ちいさな島の秘密の研究所に落ちました。絵を見て研究所のひとたちは考えました。

ほんごくから、こんな ずめんが とどいた。・・・モグラの えが かいてある。こんな ものを、なんのために つくらなくてはならないのだろう」

学者たちは、結局、モグラのロボットを作ることにしようと決めました。

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設計図を書き、形を決め、さびない金属をつかったモーターは、原子力電池です。

「よし、せいこうだ」

「ばんざい」

ほんごくの大臣はが、やって来ました。

「ロボットのモグラだと」

「めいれいの ずめんに ございました」

「みんな、くびだ」

そして、研究所は取り壊されました。
でも、モグラのロボットたちは働き続けました。草木の世話をしました。

ハナコちゃんは、何もなかった庭に花を見つけて驚きました。

「タネも まかないのに・・・ふしぎねえ」

もしかしたら、それはロボットのモグラの仕業かもしれません。

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星新一のショートショートを、むりやりショートショートにしました。筋だけのものになりましたので、星新一のショートショートは絵本でお読みください。

 

以前、仏教の教え「一水四見」のことを書いたことがあります。
「水」は、人にとってはたいせつな飲みものですが、魚にとっては住みか、天人にとっては宝、餓鬼には飲もうとすると火に変わる苦しみの存在だというように、同じ「水」も見るものによって異なって認識されるというたとえ(教え)でした。

 

世界中が花いっぱいになるといいなって思っているハナコちゃん。ハナコちゃんは、その願いを草木の世話をさせるモグラの絵に込めました。でも、ハナコちゃんの絵はカモメにとっては「ただの かみきれ」。秘密の研究所の学者たちにとっては「ほんごくの めいれいの ずめん」です。「本国の命令」というところが笑えます。学者たちは 原子力電池で動くもぐらをつくりました。そして、もぐらのロボットたちはいまも働き続け、花を咲かせているかもしれないというところにブラックユーモアを感じます。初出は1978年ですが、文も絵も古くなった感じがしません。

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※『はなとひみつ』星新一作 和田誠絵 フレーベル館 2009年 (2022/3/13)

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