ふるはしかずおの絵本ブログ3

『爆弾のすきな将軍』-「最高の戦争をはじめてやるぞ」

イタリアの哲学者であり、小説家のウンベルト・エーコ ( 1932-2016 ) の 戦争批判の絵本です。

 

      ・・・     

むかし、

アトモという名の原子がいました。

   

世界は 原子で いっぱいです

ママ、ミルク、女の人、空気、火も 

原子で できています。

わたしたちは、みんな 原子で できているのです。

   

    

原子が なかよく 手をつないでいるときは、

うまく いっています。

ところが、

ひとつの原子が 強い力で こわされると

そのかけらが ほかの原子にぶつかり、こわし、またべつの原子へと・・・

こわされ つづけます。

すると、

ものすごい 爆発が おこります。

原子の死です。

   

アトモは、

原子爆弾のなかに とじこめられています。

大爆発を まつだけです。

   

    

世界には、爆弾づくりに熱心な、将軍がたくさんいます。

   

 「たくさん爆弾がたまったら・・・

  最高の戦争をはじめてやるぞ

    

爆弾のなかの 原子は 悲しんでいました。

たくさんの子どもが 死ぬでしょう。

たくさんのママが

たくさんの子猫が

たくさんの子牛が

たくさんの小鳥が

だれもかれもが、死んでしまうでしょう。

爆弾が おちたら

なんにも のこりません。

    

    

アトモたちは、爆弾からぬけだし、地下室にかくれました。

将軍は 大きな声で せんげんしました。

   

 「戦争をはじめるぞ!

   

人びとは、町から にげだしました。

でも、いったいどこへ・・・?

    

    

爆弾が おとされましたが、

アトモたちがにげだした爆弾は、爆発しませんでした。

ひとびとは 気がつきました。

爆弾のない日の すばらしさに。

もう 決して戦争はしない、と決心しました。

   

    

将軍は?

金のモールのついた 軍服を 役立てるために

ホテルの ドアマンに なりました。

    

ホテルには、たくさんの 観光客がやってきました。

みんなが、平和を たのしんでいたのです。

将軍は、もう なんの役にも たちませんでした。

    

          ・・・

『薔薇の名前』のエーコに、絵本があるとは知りませんでした。図書館で見つけた絵本です。  
       
絵本のなかで、金持ちが、将軍に向けて言っています。「われわれの金で作った爆弾にカビをはやすつもりか、なんのために将軍がいるのかね?」。将軍が答えます。「戦争をはじめなければ、わたしは立派な将軍にはなれんのです」。ふたりの会話を見ると、アリス・ウォーカーの「戦争は戦争の目でものを見るのよ」(『 なぜ 戦争は よくないか 』)という言葉を思いだします。

     

将軍は、別のところで「最高の戦争をはじめてやるぞ」とも言っています。戦争に「最高」などあるのでしょうか。「最低」ばかりです。
         

絵は、コラージュの技法で表現されています。絵本のコラージュはかなり知的な表現で、その意味を読み取るのは、子どもには難しいかもしれません。また、スタンリー・キューブリックの映画「博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」(1964年)を思いだしました。絵本の初版は1990年です。戦争と核の危機は、いまも続いています。

   

           ・・・

※『爆弾のすきな将軍』ウンベルト・エーコ 文 ; エウジェニオ・カルミ 画 ; 海都洋子 訳 六曜社 2016年  (2024/4/7)

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