ふるはしかずおの絵本ブログ3

『焼けあとのちかい』- 「戦争だけは絶対にはじめてはいけない」

半藤一利さん(1930-2021)の戦争と空襲体験が、なまなましく描かれています。

   

    
東京の下町・向島でうまれた。

学校から帰ると、日が暮れて まっ暗になるまで 遊んだ。

チャンバラごっこ、馬とび、石けり、けん玉、三角ベース、おしくらまんじゅう、メンコ、ベエゴマ・・・

   

  

小学校5年生のとき、戦争が はじまった。

「バカな戦争なんかはじめやがって」と、父が言った。

 〈父は非国民なのかもしれない・・・〉

   

    

 色々なものが、なくなってきた。

 町から 若い男の人も いなくなり、

 笑顔や笑い声が 消えていきました。

 母と3人のきょうだいも、疎開しました。

   

    

1945年 3月 10日 未明

334機のB29が飛来し、1670トンの焼夷弾を 落としました。

10万人以上の人びとが なくなりました。

  

  

  空襲下、命からがら 逃げまどう様子が、

  8枚の絵をつけ、リアルに 表現されています。

    

    

平井橋から 中川に落ち、

手をつかまれ、だきつかれ、体がぐるぐるまわり、

おれは、死ぬ・・・

   

   

死にものぐるいで、うかびあがり、

たまたまそこにいた船に 助けられたのです。

 〈おれは助かったんだ・・・

 

 地獄のような光景を、わたくしは なんのの感情もいだかず、

 船の上から ただながめていました。

 

 

 戦争の本当のおそろしさとは、自分が人間でなくなっていることに

 気が付かなくなってしまうことです。

    

    

「絶対に正義は勝つ」「絶対に日本は負けない」・・・と信じたことが

どんなにむなしいことかを、焼け跡から学んだ。

だから、「絶対」という言葉を使わないと決めた。

しかし、

いま、「絶対」という言葉を使って、伝えたいことがある。

  

   

 「戦争だけは絶対にはじめてはいけない」

    

           ・・・

3月10日の東京大空襲の下、生死の境をさまよった作者の怖ろしい体験が、生々しく描写されています。中学生の「わたくし」の生と死をわけたものは、ほんの紙一重でした。

  

文章は、一人称視点「わたくし」の目から語られています。「わたくし」という言葉は、語り手がおとなであることを想像させます。現在の「わたくし」が、過去の「わたくし」をふりかえります。過去と現在がないまぜになった二重の視点が、絵本体験を豊かにします。そして、戦争が現在の問題であることを訴えます。

     

『日本のいちばん長い日』『ノモンハンの夏』などの著作で知られる半藤一利さんの原点がどこにあるか、よくわかりました。

       ・・・

※『焼けあとのちかい』 半藤一利文、塚本やすし絵、大月書店 2019年  (2023/10/23)

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