ふるはしかずおの絵本ブログ3

『いしになった かりゅうど』- モンゴルのむかしばなし

『スーホの白い馬』の大塚勇三さんと赤羽末吉さんのコンビによる、

もう一つの モンゴル民話の絵本です。

      

    

むかし、

モンゴルに

ハイリブという、若い狩人が いました。

   

ある日、

しろへびを 助けました。

   

 「よかったなあ、ちびさん。はやく、うちにおかえりよ

   

   

つぎの日、

しろへびが、やってきて、こんなことを言いました。

 

    

 わたしは、りゅうおうの むすめなのです・・・

 おとうさんは、お礼にしたいと いいますので、迎えにきました。

 なにかさし上げたいと 父はいうでしょう。

 そのとき、

 口のなかの 宝の玉がほしい、いいなさい。

 とりやけものの言葉が、なんでもわかる 宝の玉です

 でも、ほかの人に話すと、あなたは石になります

      

     

ハイリブは、りゅうおうから、宝の玉を もらいました。

     

宝の玉を手にすると、

狩りをするのが 楽になりました。

とりや けものの言葉が みんな わかるのでした。

  

  

何年かあとの ある日、

とりの群れが、さけんでいます。

        

 あした、山がくずれ、

 おおみずで 野原は、水浸しになる。

 みんな 死んでしまうぞ。

    

  

ハイリブは、村に 駆けもどり、

  

 「はやく、はやく、ほかのところへうつろう!

  やまがくずれる、おおみずがくる!

   

   

村人は、ハイリブに、なぜそうなのか、尋ねました。

でも、

話せば、自分は 石になってしまいます。

ハイリブは、考えました。

そして・・・

     

 宝の玉を手に入れた いきさつを

 鳥やけものの言葉がわかることを、

 この秘密を話すと、石になることを

 はなしました。

   

   

話し終えると、

ハイリブは、すっかり 石になってしまいました

   

 

あくる日の 朝、

ハイリブの 言うとおり、

山が くずれ、

大水は のはらもなにも 埋めてしまいました。

     

避難した 村人たちは、

嵐の後、

もとは ハイリブだった石を 探し、

その石を 祭りました。

いまも、「ハイリブのいし」と、呼ばれています。

  

        ・・・

鳥たちの言葉を聞いて、村人をたすけようとしたハイリブ。でも、宝の玉の秘密を話せば、自分は石になってしまうことを知っています。「はなす」「はなさない」の究極の選択です。自分が石になることを知りながら、ハイリブは、村人を助けるため、りゅうおうの宝の玉のことをはなす決断をしました。

   

  「このままでいいのか、いけないのか、それが問題だ」

            シェイクスピア、小田島雄志訳『ハムレット』

   

ハムレットの問いは、ここにもありました。

   

      ・・・

※『いしになった かりゅうど』 大塚勇三作、赤羽末吉絵、福音館書店 2020年  (2024/1/27)

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