ふるはしかずおの絵本ブログ3

『月夜のバス』- ファンタジーがつくられる、うまれる

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通り過ぎバスの中に、魚たちを見るというファンタジー です。
ファンタジーの世界はどのように作られているのでしょうか。
      ・・・
ファンタジーの世界をつくる道具立て。
の国道
月夜
満月
白い波がしら、
車のすくない時刻
ひびく波の音
青い闇
信号
車やバイクのヘッドライト
灯台の明滅
これらの表現がファンタジーの世界をささえます。現実から非現実へのイメージの流れは、リアリティのある細部が支えます。ファンタジーを創造します。なにかが起こりそうな気配です。
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うつむいて道をいそぐ少年。
このような夜に、なぜ、急いでいるのかはわかりません。
たちどまり
ぼんやりと
車の列をながめる 少年

 (幻想的な世界を見る少年の主体的条件)
     ・・・
大型バスがやってきます。
くびをかしげる 少年。
月光のさしこむ海底のように、ほの青くかがやく。
 (海底のイメージ。青のイメージ)
さざなみのようにひかるもの。
 (波の比喩)
 (不明なもの)
いま、通過する バス。
その窓をのぞきこみ、少年は息をのみます。
 (なにがおこるのか、読者も少年とともにあります)
    ・・・
青いすきとおった水でみたされた バス。
大小さまざまな魚たちがおよぐ。
青い魚
熱帯魚
稚魚たち
イソギンチャク
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月夜のファンタジーはこのようにして生まれてきます。ファンタジーをつくる客観的条件(満月、車のすくない時刻、波の音、青い闇、灯台の明滅・・・)。ぼんやりとながめ、くびをかしげる少年の主体的条件もこの世界を支えます。潮のにおい、波の音、月のひかり、ほの青くかがやくバス、熱帯魚のあざやかな色のイメージ。読者の五感を刺激する文章です。
黒井健さんの絵がすばらしい。
幻想的な世界を文章だけでなく絵でもつくりだしました。
      ・・・
※『月夜のバス』 杉 みき子作、黒井 健絵、 偕成社 2002年  (2018/8/1)

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