ふるはしかずおの絵本ブログ3

『ひとつの火』- いまでも、どこかで誰かを照らしている

新美南吉の 幼年童話です。

わたしは、牛飼いの提灯に つけたあげた 火が、

いまでも どこかに 灯っているのではないか、と想像します。

       

       ・・・

わたしの家は、山のふもとで、
提灯や ろうそくを 売っていました。

 
ある晩のこと、

ひとりの牛飼いが、

提灯と ろうそくを買い、こう言いました。

    
 「ぼうや、すまないが、ろうそくに 火をともしてくれ

   
わたしは、マッチをすったことが ありませんでした。
おっかな びっくり、マッチを擦ると、

青い火が ともりました。

   
 「や、ありがとう。」

  
      

わたしは、ひとりになってから、想像します。

わたしの火は、どこまで ゆくのだろうか

 

  

牛飼いの火は、

ひとりの旅人の 提灯に 火になるだろう。

  

旅人は、

山道で、

太鼓やかねをもった、人たちに 会うかもしれない。

そして、こう言われるだろう。

    
 
 村の ひとりの子どもが、

 狐にばかされて 村にかえってきません。

 それで わたしたちは さがしているのです。

 すみませんが、提灯の火を かしてください。

      

    
かれらは、

提灯に 火をつけ、

かねや 太鼓を 鳴らして、

山や谷を さがしてゆくだろう。
      

 

  わたしはいまでも、あのとき

  わたしがうしかいのちょうちんにともしてやった火が、

  つぎからつぎへうつされて、

  どこかにともっているのではないか、

  とおもいます。

      

      ・・・

おっかなびっくり、わたしがつけたマッチの火は、いまでもどこかで、誰かを照らしている、助けていると想像しています。小さなマッチの火は、さまざまに解釈することができるでしょう。マッチの火のように、あたたかいものがつたわってきます。

    

マッチの火は、「青い火」と表現されています。実際、マッチの火は「青い」というよりは、オレンジ色に近いように思います。でも、はじめてマッチをつける「わたし」の目には、「青い火」に見えたのです。

     

絵は、南吉が生きた時代、おはなしの背景を表現していて、レトロな雰囲気があります。

            

愛知県安城市は、新美南吉生誕百年を記念して「安城市新美南吉絵本大賞」を創設しました。『ひとつの火』は、第3回安城市新美南吉絵本大賞で大賞となった作品です。

    

      ・・・

※『ひとつの火』 新美南吉作、ほんまきよこ絵、安城市図書情報館 2023年  (2024/2/13)

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