ふるはしかずおの絵本ブログ3

『てぶくろ』- 作者のしかけをたのしむ

ラチョフの『てぶくろ』(福音館書店)だけでなく、こんな『てぶくろ』の絵本もありました。トレッセルトの『でぶくろ』です。

     ・・・

森の中で、てぶくろを落としたのは、おじいさんではなく、おとこのこです。

 

 このさむいのに、どうして、そんなことに なったかだって?

 それは わからない。

 だって、これは ぼくのおじいちゃんが

 はなしてくれたことだから。

  

 

語り手は、「ぼく」

おはなしは、「ぼく」が「おじいちゃん」から聞いた、はなしという設定です。

 

 登場人物たちは、

 ねずみ

 かえる

 ふくろう

 うさぎ

 きつね・・・

  

はいいろおおかみが てぶくろに 入ります。

いのししが

てぶくろに 入ろうとすると・・・

 

 そんなの むりだって?

 ぼくのおじいちゃんの おはなしが そうなんだから、

 そうなんだろ。
  

  

くまが やってきました。

くまが なにもいわないうちに

みんな どなった。

 

 「むり! むり! ぜったいむり!」

 

くまが てぶくろに からだを 押しこんでいるとき、

こおろぎが やってきて 言いました。

 

 「もぐりこめるかな?」

 

でも、こおろぎの 前足の爪が・・・

てぶくろを

 

 ビリビリ バリバリ

 

どうぶつたちは ふっとんでしまった!

 

おとこのこが もどってみたけど てぶくろは 見つからない。

バラバラなものは あったがね。

とうとう おとこのこは わからずじまい。

ぼくの おじいちゃんが そういっている。

「ぼく」の語ったおはなしは、おじいちゃんが語ってくれたことでした。それを「ぼく」が、聞き手に語るという手の込んだ仕組みです。

 

最後の場面は、「さがしに もどってみたが、ないんだなあ。わけのわからん バラバラなものは あったがね」となっていますが、「ぼく」と「おじいちゃん」が重なっているような口調です。

  

 

また、「聞き手」が登場しています。「聞き手」は、語り手の「ぼく」に尋ねたのです。語り手の「ぼく」は、「どうして、そんなことに なったかだって?」とか、「そんなの むりだって?」と、「聞き手」に答えています。「聞き手」は、おはなしの中に姿もみえませんし、せりふも書かれてはいません。しかし、語り手のことばは、一般に、おはなしの中に想定されている「聞き手」に向けて発せられています。

  

  

おはなしは、入れ子構造になっています。・

真ん中に、てぶくろをめぐる人物たちの会話と行動、それをおじいちゃんから聞いた話として語る「ぼく」と「聞き手」。さらにその外側に、この話を書いた作者と、この話を読んでもらったり、読んでいる読者がいます。三重の入れ子構造です。

          ・・・

※『てぶくろ』アルビン・トレッセルト作、ヤロスラーバ絵、三木卓訳、のら書店 2005年  (2023/3/4)

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