ふるはしかずおの絵本ブログ3

『なんにもないない』- 自分を見つけだす、こいぬ

すがたの見えない犬の「なんにもないない」が、自分のすがたを得るはなしです。

状況設定が、とても奇抜です。

     

      ・・・

ずっと むかし、

古ぼけた農場に、3びきの 捨て犬の兄弟が いました。

とんがり屋根の 犬ごやは、とんがりにいさん。

くるりん屋根の 犬ごやは、くるりんにいさん。

まあるい屋根の 犬ごやは、“なんにもないない” 

  

 

 “なんにもないない”って、へんな 名前です。

 “なんにもないない”って、姿が なかったのです。

  (誰にも見えなかったのです)

  

 

ないないは、

跳ぶことも、

走ることも、

食べることも、

見ることも、

聞くことも、

臭いを嗅ぐことも できました。

にいさんたちと 仲良く 暮らしていました。

   

ないないは、見えないことなんて へっちゃらでした。

    

    

ある日、

男の子と女の子が やってきます。

兄さんの犬を 抱きかかえ、連れていって しまいました。

ないないは、2人に ついていきます。

でも、みんなと はぐれてしまいました。

       

   

もの知りの からすに 出会いました。

からすは、「ありやなしやのじゅつ」を ないないに 授けました。

 

  9日間、日の出ととも おきだし 魔法のことばを 

  唱えるべし・・・てんてこまいまい ぐるぐるまい

    

それだけ言うと からすは 飛んでいきました。

     

   

つぎ朝、ないないが、唱えました。

 

  てんてこまいまい ぐるぐるまい 

  てんてこまいまい ぐるぐるまい

  

 “ないない”の姿が ぼんやりと 見えました。

 

   

 次の日には、背中のくろい点が あらわれ、

 3日目には、てんてんが 増えました。

 4日目には、しっぽの先にくろい色

 5日目には、目が あらわれ、

 6日目には、はなと口が あらわれました。

 7日目には、舌のかたち、

 8日目には、耳と足が あらわれました。

 9日目に、からすが 言いました。

 「やったね!・・・こんどこそ さよならだ。」

     

     

ないないは、

うれしくて、

ぴょんぴょん 跳び、

ワンワン ほえ、

走りまわりました。

           

男の子と女の子、とんがりにいさんとくるりんにいさんにも 会いました。

     

 これで、ぼくらは、“なんでもあるある” さいこうだね!

     

            ・・・

『100まんびきのねこ』の絵本作家、ワンダ・ガアグ(1893-1946)が、最後に出した絵本です。

からすの魔法を借りて「なんにもないない」が、自分のすがたを得ていく、おもしろいストーリーでした。奇抜な設定がユニークです。「ない」から「ある」への変身は、小さなあなた(読者)も「なんにもないない」と同じように、あなた自身になっていきますよ、というメッセージかも知れません。

これ以外にも、さまざまな解釈ができる絵本です。

この絵本には、別に、こみやゆうさんの訳『みえないこいぬぽっち』(好学社 2020)もあります。

       ・・・

※『なんにもないない』 ワンダ・ガアグ作・絵、むらなかりえ訳 ブックグローブ社 1994年(初版は1941年)   (2023/12/20)

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