ふるはしかずおの絵本ブログ3

『かにむかし』-クライマックスの文章

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『かにむかし』 (木下順二文、 清水崑絵、 岩波書店)の

最後の場面は、息のながい文が続きます。

読みかたりのむずかしい場面です。 

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   それまで はいのなかで きばっていおった ぱんぱんぐりは、 もう がまんしきれんように なるまで きばったところで、 さるの せなかへ ぱーんと はねくりかえった。

 「 きゃあっ 」

と、 とびあがって どまへ とんでにげて、 みずを かぶろう、 とおもって、 みずおけの みずへ

しゃっと 手をつこっだところが、 まっておった こがにどもは、 そうれっと、 がしゃがしゃ、 がしやがしゃ、 さるの からだへ とっついて、 からだじゅうを じゃきじゃき、 じゃきじゃきと はさみきりだしたから、 さるは ますます びっくりして戸口のところへ にげたところを、 うえから ぶーんと はちは まいおりて、 さるのあたまを じーんと、 するほど さした。

 さるは もう なにも わからんように なって、戸口を ひとあし とびだしたところが、 そこには うしのふんが すわっておったもんで さるは つるりと すべったひょうしに そこに たって まっておった はぜぼうに あしが ひっからまって、はちに さされた あたまを ごつうんと ぶったと おもったときには、

 うえから-

 おおきな 石うすが どしーんと おちてきて、 さるは ひらとう へじゃげて しもうたそうな。

 これで おしまい

このクライマックスは、読んでみますと 

体にじかに響いてくるような 慌ただしさや緊迫感があります。

ぱーん、 きゃあっ、 しゃっ、 そうれっ、 がしゃがしゃ、 じゃきじゃき、 ぶーん、 じーん、 つるり、 ごつうん、 どしーん

音感的な言葉(オノマトペ)の大盤振る舞いです。

仮にオノマトペを抜いて読んでみますと、その効果がよくわかります。この場面の慌ただしさや にぎやかさは、おはなしのテンポを作りあげています。

その場に居合わせるような 臨場感 があります。

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この場面は4つの文から出来ていますが、2番目と3番目の文が、とても息のながい文になっています。切れるようで切れずに綿々とつづく文体は木下民話の特徴ですが、この場面にも、それがよくあらわれています。

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映画表現のひとつに、カットバックという手法があります。

カットバックとは、 ふたつの場面を交互に挿入して、緊迫感などの劇的な効果をたかめる映像方法のことですが、『かにむかし』の この場面も、カットバックの手法に似ています。視点が小気味よくかわって、とてもおもしろいテンポを作りだしています。

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ぱんぱんぐりは・・・・・。 (さるは) ・・・・・、 こがにどもは・・・・・、 さるは・・・・・、はちは・・・・・。さるは・・・・・、うしのふんが・・・・・、さるは・・・・・、はぜぼうが・・・・・、石うすが・・・・・、さるは・・・・・。

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文は、切り目なくつながっていきますが、冗長な感じをうけません。畳みかけるようにして、さるをどんどん追い込んでいきます。オノマトペの響きによってにぎやかになった世界になります。テンポがあり、リズムと強さをもった文が織り込まれています。

この文体をいかした「読みかたり」を心がけたいものです。

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※『 かにむかし 』 木下順二文、 清水崑絵、 岩波書店 1976年 (2013/8/6)

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