ふるはしかずおの絵本ブログ3

『 オツベルと 象 』- ある牛飼いが物語るはなし

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ある牛飼いが物語る、宮沢賢治の「オツベルと象」(1926年)。
その あらすじです。
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ここは 面白いかい。 ”
地主のオツベルは、ぶらりとやってきた 白象に声をかけます。
白象を奴隷にしようと思っているのです。
     ・・・
象の首に、ブリキでつくった時計を、象の足に、百キロもある鎖をつけます。さらに、紙の靴をはかせ、四百キロもある分銅を 靴のうえから はめこむのです。( 下の絵 )
「うん、なかなかいいね」と白象は言います。
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次の日、
川から水を運び、たきぎも運び、白象は 苛酷な労働をしいられます。
食事のわらも
十把から、
八把、
七把、
五把、
三把へ だんだん 減らされていきます。
やせ細っていく 白象。
     
 ぼくはずいぶん眼にあっている。みんなで出てきて助けてくれ。 
     
なかまの象たちは、
グララアガア、グララアガア。
嵐のように 林をつきぬけ、野原の中へ 飛びだして行きます。象たちは、オツベルの屋敷の塀を乗り越え、屋敷のなかへなだれ込みます。そして、白象を救いだしたのでした。
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この作品が発表された年( 1926年 )は、賢治にとってひとつの転機でした。3月に花巻農学校を退職し、賢治は花巻で農耕に従事し自炊生活を始めました。その直前に発表したのがこの作品です。作品には、力強い集団の象が描かれています。オツベルを助けだす象たちの中に農民のすがたを見ていたのかもしれません。
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※『 オツベルと象 』 宮沢賢治作、遠山繁年絵、偕成社 1997年 
         
【 少し長い追記 】
『オツベルと象』の絵本は他にもありますが、遠山繁年さんの油絵を選びました。黄色が効果的です。また、作品に特徴的なことは、語り手の口調です。ある牛飼いがものがたるおはなしでした。おはなしの内容だけでなく、語りの口調にも面白さがあります。
     
白い象だぜ、ペンキを塗ったのでないぜ。どういうわけで来たかって? そいつは 象のことだから、たぶんぶらっと森を出て、ただなにとなく来たのだろう
     
なぜぎょっとした? よくきくねえ、何をしだすか知れないじゃないか
     
この牛飼いは、ずるがしこくて貪欲なオツベルの本質を見抜いてはいません。むしろ「大したもんだ」と評価しています。また、白象に対しても「象もじっさいたいしたもんだ」と語っています。見かけ、見せかけだけでものを判断し、おもしろおかしく、おはなしを語る人物です。
また、語り手( 牛飼い )の語りは、お話の中に 想定されている「聞き手」 に むけられています。 聞き手の姿はみえませんが、その存在を はっきりと 意識することができます。「なぜ ぎくっとした? よくきくね・・・・」、「まあ落ちついてききたまへ」 と言う言葉は、この潜在的な聞き手にむけられています。つまり、語り手の牛飼いは、聞き手と対話をしています。ふたりの会話のうち、語り手のことばだけが、作者によって書かれているともいえます。
読者は、牛飼いが語る「オツベルと象」のはなしを、聞き手とともに、そばで聞くようなイメージの体験になります。読みかたりでは、こうした語り手の存在を意識し、語り手と聞き手がまるで農家の縁側にすわって世間話をしているような調子が必要でしょう。 (2016/12/13)

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