ふるはしかずおの絵本ブログ3

『戦国時代の村の生活―和泉国いりやまだ村の一年』- 絵本の可能性をひらく

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日本歴史の絵本です。
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戦国時代(1467-1568)、
和泉国 日根野荘・入山田村の ひとびとの生活を
1年間、
百姓の少年(ぼく)の目をとおして
絵日記の形式 で描きました。
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内容を紹介するために、「絵のなかを旅する」(あとがき)という用語解説をあげておくことが便利です。以下の項目が、絵本の内容になっています。
垣内(かいと。垣根をめぐらし共同生活をしていた 住居のあつまり)
山伏
番頭(村の指導者)
端午の節句
田植
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用水施設
日照り
領主
雨乞い
盆踊りと風流
薪能
軍隊の乱暴
戦う農民
一味神水(一揆をむすぶ儀式)
逃散
年貢を納める
遊び
ききん
道祖神
湯起請
ぬすみの処罰
犯罪人の子どもたち
大井関神社の祭り
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盆踊りの7月15日の日記を読んでみます。
「夜、滝宮へ盆踊りを見にいった。まんまるいお月さまが山の上に出ると、四つの村の人たちが、びっくりするほどきれいな姿で、風流踊りの競争をした。おうえんしているうちに、にぎやかなおはやしに合わせてぼくも 夢中になって踊った。」
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田植えや盆踊りのような明るい面だけではなく、戦国時代の日根野荘には、飢饉と死が日常でした。また戦乱がつづく殺伐とした時代でもありました。
守護の侍に 襲われる村、
戦死するの 源ちゃんの兄さん、
山に逃げこむ 逃散、
飢饉と飢餓、
甚ちゃんが、食べるものがなくて死んだ。」
盗みの処罰なども、きちんと描かれています。村人たちは、協同してきびしい自然や戦乱の中を したたかに生きています。
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上の絵(遊び)には、こま回し、雪合戦、雪だるま作り、竹馬(竹にまたがっている遊び)、毬杖(左上。中国から伝えられた正月遊び)が描かれています。また、わらじ作り、田起こし、水汲み、稲刈り、セリつみ・・・絵本の中の子どもたちは、いろいろな仕事をしています。。神大井関社の祭りの場面には 猿まわし も見えます。祭りのなかで、「ぼくは 猿まわしがいちばんおもしろいと思った」のです。
      
中世日本の研究者、勝俣鎮夫(1934-)さんと画家の宮下実(1939-2010)さんの労作です。戦国時代は、血縁社会をこえて共同社会としての「村」や「町」が全国的に広がっていった時代でした。歴史研究者と画家が協力して、戦国時代の村の共同生活を描いた歴史の絵本をつくりあげました。絵本の力と可能性を感じます。
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※『戦国時代の村の生活―和泉国いりやまだ村の一年』 勝俣鎮夫 文, 宮下実 絵 岩波書店 1988年
追 記
この絵本の元になったのは、日根野荘の荘園領主 九条政基(1445-1516)の日記『 政基公旅引付 』(1501-1504)です。また、巻末にあるあとがき、用語の解説がとても役にたちます。7月15日の日記にある「風流」とは、「神社のお祭りなどのとき、さまざまな工夫をこらした作り物をつくり、また人びとがいろいろの仮装をして、笛や太鼓にあわせて踊る芸能」でした。また、「湯起請(ゆぎしょう)」は、「熱湯のなかに入れてある小石をひろいださせて、その手のやけどの状態で、その人の主張が本当かどうかを決定するものでした」。この絵本を通して、民衆の日常生活や習俗を描いた、いわゆる「社会史」とは何かが よく分かりました。歴史の授業の教材としても 有益です。小学校高学年から 大人まで。
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「歴史を旅する絵本」(岩波書店)シリーズ
・『河原にできた中世の町―へんれきする人びとの集まるところ』
   網野善彦 文、司 修 絵 1988年
・『江戸のあかり―ナタネ油の旅と都市の夜 』
   塚本学 文、一ノ関圭 絵 1990年
・『近世のこども歳時記―村のくらしと祭り 』
   宮田登 文、太田大八 絵 1990年
・『夢の江戸歌舞伎』
   服部幸雄 文、一ノ関圭 絵、 2001年
  (2018/4/12)

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