ふるはしかずおの絵本ブログ3

ことばのリズミカルな拍子や韻からくる喜び

チュコフスキーの『めっちゃ くちゃ』の一節です。

なにが「めっちゃ くちゃ」なのでしょうか。

    ・・・

野原を お散歩 さかなたち

空を とんでる ヒキガエル

ネズミが ネコを つかまえて

ネズミ取りに 入れちゃった

小さな 小さな 子ギツネは

マッチの はこを 手にもって

青い海辺へ やってきて

青い海に 火をつけた

海が どんどん 燃えだすと

クジラが 一ぴき にげてきた

消防署の人 きておくれ

助けて 助けて 助けて!・・・・

    ・・・

もう、おわかりのことと思います。

「さかなは散歩しない」「ヒキガエルは空を飛ばない」「ネズミはネコをつかまえない」これが常識。おはなしの中では、さかなが散歩したり、カエルが空を飛んだり、ネズミがネコを捕まえたりしています。

常識をひっくりかえっています。これをさかさ唄といいます。

さかさ唄とは「 〈 イ 〉 なる物に 〈 口 〉 なる物の機能を 与えたり、 その逆を おこなったりする遊び 」です。こうしたナンセンスについて、 ロシアの児童文学作家・チュコフスキー(1882-1969)は、次のように言っています。

      ・・・

「こどもが大きなものは強く、小さいものは非力であるという関係をつかみ、動物は大きければ大きいほど強いということを、はっきり知ったと仮定してみましよう。この原理が完全に明瞭になったとき、こどもはこれをもてあそぶようになます。このお遊びの内容は、直接の関係を逆の関係におきかえることにあります。つまり、大きいものに小さいものの特徴を、小さいものに大きいものの特徴を与えるのです」 『2歳から5歳まで』 チュコフスキー、樹下節訳 理論社

      ・・・

「これらの唄 ( さかさ唄 ) の場合、まちがった対位は正しい対位の確認に役立つだけであること、こうした架空物語によって、世界に対する子供の現実理解を確固にし得る」 チュコフスキー 同上書

        ж  ж  ж  ж  ж  ж 

また、文章には、リズミカルで音楽的な響きがありあります。詩的なことばです。子どもがうくしい韻律に触れることの意味について、リリアン・スミスとチュコフスキーの文章を引用します。

        ・・・

「子どもを歌や本にふれさせる最良の道は、感覚を通してである。小さい子どもは、読むことができない。そこで、かれらの喜びは、耳から、ことばのリズミカルな拍子から、音のつくりだす韻からくるのであって、必ずしもその意味からくるのではない」『児童文字論』リリアン・スミス著、石井桃子他訳、岩波書店

        ・・・

「こどもにとって、詩は人間のことばの規準であり、自分の感情と思考の自然な表現にほかならないのです。かぞえ年三~四歳ともなればこどもは、ときにはひじょうに長くて三~四百行もある物語詩を熱心に聞き、三べんも読んでもらうと、はじめからおわりまで完全におぼえこんでしまいます」 『2歳から5歳まで』 チェコフスキー、樹下節訳 理論杜

        ・・・

「教育者は、幼い教え子たちの生活におけるこの〈詩的段階〉を利用すべきです。この段階では、詩がこどもの思考と感情に働きかける、強力な教育手段の一つをなしていることを忘れてはなりません。詩が周囲の世界の知覚を助け、こどものことばの完成を効果的に促進するのは、言うまでもありますまい。

柔軟な音楽的リズムをふまえ、美しい韻をちりばめた、これらの典雅なことばの構造のお陰で、こどもはいささかも努力することなく、遊んでいるうちに、国語の構造と語彙をしっかりとおぼえます」   チュコフスキー、 同上書

       ・・・

※『ごきぶりゴン  チュコおじさんの本 1』 コルネイ・チュコフスキー、樹下節訳、理論社 1976

      

【 追記 】

さかさ唄を巧みにつかった日本の絵本に『とりかえっこ』が、あります。このブログでも紹介しましたので、ご覧ください。また、同音異義語の多い日本語の特色を逆手にとった言葉遊びの絵本に『かえるがみえる』があります。「かえる(蛙) ~える」と韻を踏んでいます。五七調、七五調の音数律、脚韻など韻言葉の音楽的要素をいかした絵本が出ることを望みます。井上ひさしの戯曲の中にある歌が、参考になるのではと思います。  (2020/4/15)

SHARE