ふるはしかずおの絵本ブログ3

『とんことり』- ほほえましい子どもの情景

かなえは、山の見える まちに 引越してきました。

知らない まち。 

     

荷物の整理に 疲れて ひとやすみ。

すると、

 

  とん ことり

 

玄関の方で、ちいさな音が します。

郵便かしら?

郵便受けのしたに、すみれの 花束が 落ちていました。

   

 

次の日も、

とん ことり

「ゆうびんやさんだ!」

郵便受けには たんぽぽが、3ほん、はさんでありました。

 

「ともだちが いなくて つまらない」

かなえが つぶやいたとき、

 

  とん ことり

 

こんどは、手紙が ありました。

「ともだちは いいです とてもうれしいです まっています」

 

かなえは あたらしい 幼稚園を見に行きました。

かなえが 幼稚園から帰って おはじきをしながら、

「ふっと」ためいきを ついたとき、

 

  とん ことり

 

 「まって、まって! まってよう!」

  

知らない おんなのこが 振りむきました。

「すみれ・・・わたしに」

おんなのこが うなずきました。

たんぽぽも、てがみも、今度の折り紙の にんぎょうも、

みんな

その子が、入れてくれました。

 

 「あそびに いこう

 

おんなのこが ちいさな声で いいました。

かなえは うなずいて、にこっと 笑いました。

 

あたらしい土地に引っ越すのは、だれにとっても不安なものです。かなえもそうです。かなえの表情、しぐさ、うごき、ポーズが、多くのことを語っています。絵が、心の動きをみごとに表現しています。

 

郵便受けの「とん ことり」は、さいしょは、謎めいた感じの音です。でも、それは、おんなのこの優しさと気遣いを表現している音でした。「とん ことり」から、あたらしい友達がうまれました。友達になるには、こちらから一歩ふみだす勇気も必要です。ふたりの関係を、少し羨ましく 思います。

 

文字のない、さいごの2ページがあります。
春の明るい光の中を自転車にのり、遊びに行くふたり。ボールあそびをしています。彼女たちの未来が見えるようです。

          ・・・

※『とんことり』 筒井頼子作、林明子絵、福音館書店 1989年  (2023/5/19)

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