ふるはしかずおの絵本ブログ3

『 太陽といっしょ 』- 異質なイメージの2重奏

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『いちご』『じんべえざめ』の作家、新宮晋さん(1937-)の絵本です。
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おはよう 太陽さん
ぼくは、
犬のルルをつれて、
自転車にのってお出かけ。
友達をさそうと、
みんないっしょに、
自転車で 走る。
花の香りがいっぱいの道をとおり、
大きな木のしたで、ひとやすみ。
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光が ゆらゆら ゆれている
森にはいると、
たくさんの目にみつめられているようだ。
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みんなとたのしいピクニック。
そして、
食事をして、
かくれんぼ遊び。
でも、森はぶきみな霧につつまれ、
恐竜があらわれる。
 (わたしのこころが見た幻想的な世界です)
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誰もいない。
こわくなってにげだす ぼく。
はしれ ルル!
森は夕日でもえている
ペダルをこぎ家へ帰る ぼく。
やさしい母の声がぼくを迎えます。
「おかえりなさい」。
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あらすじでは、詩のような文章を味気ないものにしてしまいましたが、原作には緩急のリズムがあり、自然と一体化している「わたし」のこころが見えます。また、一人称視点(「わたし」)の文章と絵の視角はある程度かさなりあっています。わたしのこころと絵は響きあうような関係です。
『太陽といっしょ』の絵本は、文字通り、太陽の光と一体化するわたしの体験が主題ですが、自転車が裏の主題でもあるように思いました。くっきりとした色彩の絵ですが、自転車が題材でもあり、どことなく懐かしさを感じます。太陽の光とものの影。色彩の明と暗。オレンジ色の乾いた道としっとりとした森の世界。わたしが体験している現実な世界とわたしが見た幻想的な世界も描かれています。過去と現在がないまぜになった世界。異質なイメージの2重性 をもった絵本です。
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※『 太陽といっしょ 』 新宮 晋作、クレヨンハウス 2017年
【 追 記 】
あとがきに作者の言葉がありました。「ぼくが小さかったころ、さびだらけの自転車が一台あった。この自転車は、世界中どこにでも行ける魔法の乗りものだと、ぼくは信じていた」。まったく同感です。また、原作は常体の文章体で「わたし」と表記されていますが、あらすじは「ですます調」の敬体で「ぼく」と表記して紹介しています。  (2019/3/2)

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