ふるはしかずおの絵本ブログ3

『 夢 金 』-落語まで絵本になるΣ(´∀`;)

落語の絵本です。

演目は「夢金」。

 (「夢金」ですか。大人向けでもありますね。)

      ・・・

しんしんと雪の降る夜。

隅田川の船宿をたずねる、わけありの侍(浪人)とむすめ

「大桟橋まで 船を一そう たのみたい」

「あいにく、船頭が出はらっておりまして」

      ・・・

二階で寝ていた欲の深い熊。

「百両ほしい」と寝言を言っています。

小遣いをねだる輩でと、主人が躊躇していると、

「おこせ」と侍(浪人)が命じます。

「くまこう おきゃくさまだ・・・こづかいを たくさんくださるそうだ!」

それを聞いて、熊は

「おやかた、すぐに船のしたくだ!」

降りしきる雪。

さむいの さむくねえの。

船をゆすって、小遣いを催促する熊。

しかし、侍は、小遣いをわたさず、金もうけの相談を持ちかけます。

「金もうけのそうだんがあるが、ひとつのるか?」

「えっ、金?」

     ・・・

じつは、あのむすめ、

大金持ちの商人のむすめで、

店の金を盗んで、男のもとにいくところだと明かす侍。

200両はあるぞ。

むすめを殺せと命じます。

しかたなく、したがう熊。

でも、侍が泳げないと聞いて、一計を案じます。

「あそこの 中洲でやろう」

「よし、すぐに船をつけろ!」

中洲に侍をおろすと、

熊は、さおで岸をグイっ グイ。

むすめを乗せた船は中洲をはなれます。

「へーん、ばかやろう・・・おじょうさんを たすけるんだ!」

      ・・・

むすめを助けたお礼に、大金もちの親は、

百両の金を熊にわたします。

百両!

      ・・・
「おーい、くまこう、しずかにしねえか!」

二階で寝ている熊に主人が言いました。

つまり、今までのはなしは、夢の中の出来事だったという落ちです。

「 欲深き人の心と降る雪は積もるにつけて道を忘るる」( 狂歌 )

人間の欲望が生みだした夢世界です。おはなしがすべて夢であることが最後で分かりました。はじめから夢の中の出来事だったのです。しかし、リアリティがあります。

        

この世界を覆っているのは、雪が降り続く寒い冬の夜 です。その中に、滑稽味だけでなく、熊の凄みやヤクザな気質、人殺しを企む侍の不気味さが見られます。絵本の熊(上の絵)は、滑稽な人物として際立っていますが、侍と渡り合う凄味のある人物のようにも見えます。また、落語では、酒手を催促する熊蔵の強欲さ、金の分け前の話をする浪人と熊蔵のかけあいが聞き所です。人物描写や情景描写が難しい噺で、真打のネタだと思います。

      

「夢みるのも覚めているのも、もとより一如であり、実相である」 (道元禅師)。 (ここまで言っているかなあ)

      ・・・

※『 夢 金 』 立川談春文、寺門孝之絵、ばば けんいち編、あかね書房 2017年

【 追記 】

本文中の 狂歌「欲深き人の心と降る雪は積もるにつけて道を忘るる」は、 6代目三遊亭圓生さんの「夢金」のマクラで聞きました。また、最後に「強欲は無欲に似たり」と言っていたように思います。 また、このような夢と現実がないまぜになった世界を描いた落語に「鼠穴」があります。わたしの好きな落語です。      (2019/4/4)

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