ふるはしかずおの絵本ブログ3

『 ふるやの もり 』- 勘ちがいが生みだす 笑い話

55絵本の世界にはいるための 橋渡しが 必要な本が あります。
『 ふるやの もり 』も そのひとつ。
読む前に、「 ふるやの もり 」とは、
古い家の 雨漏りのことだと 子どもに知らせておくことが 必要かもしれません。
      ・・・ 
むかし、
ある村の はずれに、
じいさんと ばあさんが、りっぱな こうまを そだてていました。
雨がふる ある晩のこと、
馬どろぼう が 
忍び込み、梁の上に 隠れます。
おおかみ も 
こうまを 食べようとして、藁のやまになかに 隠れていました。( 下の絵 )
うう
じいさんと ばあさんは、
こんな晩は、
どろぼうや おおかみが 怖いと はなしあいます。
でも、ばあさんは、「 ふるやのもりが、いちばん こわい 」と言います。
どろぼうと おおかみは、
「 ふるやの もり 」とは、
どんな ばけものだろう 」と怖くなってきました。
      ・・・
雨が ざんざと 降ってきて、
雨漏りが ぽつり ぽつり。
じいさんと ばあさんは、さけびます。
そら、ふるやのもりが でた!

どろぼうの首にも 
ぽとんと ひとしずく。
ひゃー、ふるやのもりじゃ !
どろぼうは、梁から おおかみの上に 落ちてしまいました。
おおかみも、
きゃー ふるやのもりじゃ!
ふふ
どろぼう は、おおかみに しがみつきました。
いっぽう、
おおかみ は、ふるやのもりに とりつかれたと思い、
いちもくさんで にげだした。
     ・・・
どろぼう は、しがみついたのが、おおかみだと知って、
びっくり。
大木の ほらあなに 隠れました。
おおかみ は、仲間に「 ふるやのもり 」にとりつかれた はなしをして、
知恵のある さるを 「 ふるやのもり 」退治に さしむけました。
    ・・・
さる が、ほらあなに しっぽをさしこみ、
どろぼう が なかから ひっぱり、
りょうほうで うんうんと ふんばると、
ぷつん !
しっぽが ちぎれ、
どろぼう は あなのなかに まっさかさま。
さる は、顔を すりむき、真っ赤な 顔になってしまいました。
えう
笑い話です。
雨の晩は、このようなはなしを 囲炉裏をかこんで 語っていたのでしょうか。
このおはなしの面白さは、人物は知らないが、読者は知っているという仕掛けからきています。どろぼうは おおかみのことを、おおかみは どろぼうのことを、お互いに知りません( 読者は知っている )。どろぼうも おおかみも「ふるやのもり」とは何かを知りません( 読者は知っている )。どろぼうとさるの関係も 同様です。これらの人物と読者の関係をふまえて、読みかたることで、笑いやユーモアが生まれます。絵は、田島征三さん。迫力のある絵です。田島さんのデビュー作です。
      ・・・
※『 ふるやの もり 』 瀬田 貞二再話、田島 征三画、福音館書店 1969年
      
【「想定される読者」に関する長い追記 】(関心のある方に)
 絵本の世界にはいるために、橋渡しが必要な絵本があるといいましたが、その点について、「想定される読者」という点から書いてみます。
 「想定される読者」とは何でしょうか?
 『 スイミー 』にその面白い事例がありますので、引用して説明します。
 スイミーの人物描写に「 みんな あかいのに いっぴきだけ からすがいよりも まっくろ 」という文があります。「 からすがいよりも まっくろ 」という直喩は、「からすがい」を引き合いにして、さかなのスイミーが真っ黒であることを強調するものです。この表現は、「読者」が「からすがい」をよく知っているということを前提にした表現です。みんながよく知っている あの「 からすがい 」よりも真っ黒なんだよと言うように。でも、日本の読者は、「 からすがい 」のことをよく知りません。むしろ、「 まっくろ 」という表現があるから、「 からすがい 」って、黒いんだなって思うのではないでしょうか。こうした表現から、作者が、誰にむけておはなしを書いたのかがわかります。
 さて、『 ふるやの もり 』が「想定する読者」は、「 ふるやの もり 」がなんであるか、すでに知っている読者です。しかし、現代の読者は、「ふるやの もり」が古い家の雨漏りのことだと知らないでしょう。雨漏りを経験したこともないでしょう。彼らにとって、この言葉は「死語」になっているかもしれません。絵本をよむ前に、『 ふるやの もり 』が「想定する読者」と現代の読者の「 溝 」をうめておくことが大切です。言いかえれば、実際の読者(現代の子どもたち)を絵本の「想定される読者」(絵本の世界の住人)にする必要があります。遠い外国のおはなし、身近でないおはなしなどには、この「 橋渡し 」が必要です。  (2018/1/27)  

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