ふるはしかずおの絵本ブログ3

『しあわせハンス』-ハンスはしあわせ?  

グリム童話です。

ハンスが手に入れた大きな金のかたまりは、交換するうちに、馬、めうし、豚、がちょう、砥石に変わっていきました。

      ・・・

ハンスが奉公をして、7年がたちました。

「くにのかあさんとこにかえりたくなりました。おきゅうきんをくださいまし」

主人は、大きな金のかたまりをハンスにやりました。

      ・・・
家へ帰る途中、

ハンスは馬に乗った男に出会いました。

「馬にのるって、すてきだな。おもいきんなどもたないで、みちがどんどんはかどるもん」

「どうだね、とりかえようか」

ハンスは、金と馬を交換します

ハンスは幸せいっぱいになります。

でも、馬から投げだされてしまいました。

「もう うまはこりごり」

ハンスは、めうしと馬を交換します

めうしに蹴られたハンスは、こんどは、めうしをと交換します。

このようにして、

豚をがちょうと交換し、

がちょうを砥石と交換します。

     ・・・

最後は、泉で水を飲んでいる時、ハンスは砥石を泉に落としてしまいました。ハンスは思わずよろこんで躍ります。重荷になっていた石がなくなるなんて、なんて運がいいのでしょう。

「まったく、ぼくくらいしあわせもんは、てんかにいないや」

心うきうき道を急ぎ、かあさんの家に着きました。

解釈に悩む話です。

ものに執着しない人物、ハンスが描かれています。常識的に見れば、おバカなハンスというこになるでしょう。しかし、金のかたまりが、馬、めうし、豚、がちょう、砥石に変わっても、ハンスの心はものに左右されていません。

 

禅宗に「放下著」(ほうげじゃく)という教えがあります。「放下著」とは「煩悩妄想はいうに及ばず、仏や悟りまでも捨て去る、すべての執着を捨て去れ、すべてを放下せよ!」(臨在禅 黄檗禅 公式サイト)という教えです。ハンスは、砥石がなくなったことをなんて運がいいと考え、しあわせとさえ感じています。

   

ギリシャの哲学者・エピクロスは言っています。

水とパンで暮らしておれば、わたしは身体上の快に満ち満ちていられる」  エピクロス、出隆・岩崎允胤訳『教説と手紙』(断片二. 37)岩波文庫

         ・・・

※『しあわせハンス』 グリム童話、フェリクス・ホフマン絵、瀬田貞二訳、福音館書店 1978年

   

【 3つの追記 】

瀬田貞二さんの翻訳文は、テレビ画面のテロップのようにページの下に一行にして書かれています。改行と思われる所には赤い●があります。絵の中に文字がないのは、フェリクス・ホフマンの絵を尊重した工夫だと思います。また、ハンスの空色の上着が印象的です。

 

「 エピクロス(Επίκουρος、Epikouros、紀元前341年 – 紀元前270年)は、快楽主義などで知られる古代ギリシアのヘレニズム期の哲学者。エピクロス派の始祖である。 現実の煩わしさから解放された状態を「快」として、人生をその追求のみに費やすことを主張した」 (ウィキペディア)

 

「他人の人生が幸せなのか不幸なのかは絶対にわからない」

            (笹山敬輔『昭和芸人 七人の最期』から) 

鷲田清一さんの「折々のことば」(朝日新聞、2021/12/23)にありました。

                     (2022/1/10)

SHARE