この絵本の「わたし」は、たくさんの 名前( 呼称 )を 持っています。
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おとこのこから みると / おんなのこ
あかちゃんから みると / おねえちゃん
おにいちゃんから みると / いもうと
おかあさんから みると / むすめの みちこ
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がいこくじん みると / にほんじん
うちゅうじんから みると / ちきゅうじん
えかきさんから みると / もでる
・・・ まだまだ、つづきます。
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おなじ 「 わたし 」 が、相手によって呼称が 変化しています。実体はひとつでも、視点との関係によって呼称が違っています。「 わたし 」 という存在の多様性 を示しています。
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多くの呼称をもっている「わたし」は、言いかえれば、多様な人間関係を生きているともいえます。「わたし」は社会的な存在です。
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ところで、「わたし」とは、誰なのでしょうか。
おんなのこ、
おねえちゃん、
いもうと、
むすめのみちこ、
おともだち、
せいと、
おきゃくさん ・・・
と呼ばれているすべてを集めたものが、「わたし」 なのでしょうか。
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「わたし」とはいったい誰なのか、これらの多様な呼称をもっている「わたし」の 同一性、共通性は何かという 哲学的な問題を含んでいます。でも、これは大人の問題です。
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5歳の「わたし」にとって、「わたし」とは やまぐちみちこ です。固有名詞はだれから見てもかわりません。それは「 わたし 」なのです。
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絵本の絵は、長新太さん。
ユーモアは彼の絵本の魅力です。
新聞を読んでる おかあさん、
料理をしている おとうさん。
そして、
がいこつの絵 ・・・
また、 人物たちは横目を使っています。「 わたし 」に しぜんと視線がむきます。
『 わたし 』は、
「わたし」のまわりの世界について考えたり、
「わたし」を客観的に見るきっかけを与えてくれる絵本です。
絵本の出版は1981年。親子2代の絵本になりました。
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※ 『 わたし 』 谷川俊太郎 文、 和田誠 絵、 福音館書店 1981年