
絵本の古典(初版1845年)です。
ドイツの医師ハインリッヒ・ホフマン(1809-1894)が、わが子のためにつくった絵本。有名な「もじゃもじゃペーター」から「そらをとんだローベルトのおはなし」まで10のおはなしが入っています。出てくる子どもは、みんないけない子ばかり。悪いことをする子は、こんなひどい目にあいますよと教訓的に語っています。
表紙に描かれた「 もじゃもじゃペーター 」を引用しましょう。
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ごらんよ ここにいる このこを
うへえ! もじゃもじゃペーターだ
りょうての つめは 1ねんも
きらせないから のびほうだい
かみにも くしを いれさせない
うへえ! と だれもが さけんでる
きたない もじゃもじゃペーターだ!
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次のような おはなしが続きます。
〇いたずら坊主のフリードリッヒ。イヌに噛まれ、苦い薬を飲まされる。
〇パウリンヒェンはマッチで火遊び。
火が自分に燃え移り、靴だけ残して灰になる。
〇黒人の子どもをバカにする3人の子ども。
ニコラスさまにインクつぼに入れられ、真っ黒に。
〇指しゃぶりしたコンラート、仕立て屋さんにちょきん、ちょきん
親指を切り落とされる。 (怖すぎ! (゚д゚)! )
〇スープを飲まないカスパー。どんどん痩せて、5日目には墓の中。
( こわ! )
〇ざあざあ雨降りの日に、外へ飛びだすローベルト。
風に飛ばされ、どこへ行くかわからない・・・
〇ぼんやりハンス。川に気づかず、ボッチャーン!
「火が自分に燃え移り靴だけ残して灰」になったり、「親指を切り落とされ」たりと残酷で救いのないようなおはなしもあって、どのおはなしも強烈です。子どものしつけに恐怖や残酷さを用いてもいいの、という疑問もあることでしょう。(ほんとうに。そう思います。)
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作者は、悪い行いの結末をある意味残酷に表現していますが、それは悪い行いには罰があると子どもたちを戒めるところにねらいがあるように思いました。作者ホフマン博士の真面目で真剣な態度を感じます。
( だから、怖いなあ。)
( やっぱり、抵抗感があるなあ。)
ベッティーナ・ヒューリマンの『ヨーロッパの子どもの本』(ちくま学芸文庫)の中に、「ジークムント・フロイトは「もじゃもじゃペーター」を調べたが、ついにこの本の成功の謎は解けなかった」とありました。また、彼女は「ホフマン博士の仕事は、グリムの昔話に次いで、ドイツが児童文学になした最大の貢献といえる」と評価しています。
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※『もじゃもじゃペーター』ハインリッヒ・ホフマン作 ささきたづこ訳 ほるぷ出版 1985年
【追記】
訳文は原作の韻文をいかして、主として3文節で訳していますのでテンポよく読むことができます。また、厳しさの中にある種のおかしみ(ユーモア)があります。ブログには原作の絵本を取り上げましたが、生野幸吉訳、飯野和好絵の『もじゃもじゃペーター』(復刻ドットコム)もあります。 (2019/9/15)