かあさんとおばあちゃんとわたしの3人の家族のはなしです。
アメリカに生きる、マイノリティーの一家です。
「わたし」の視点から語られます。
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かあさんは、
食堂のウェートレスです。
わたしも時々お手伝いをします。
わたしはもらったお金の半分を、壜に入れておきます。
壜が一杯になったら、いすを買うつもりです。
ふわふわで、きれいで、大きくて、
バラの模様がついた ビロードに覆われた いす。
世界中で いちばん素敵な いすです。
( 椅子の描写の〈うら〉に、わたしの思いがあります。
でも、なぜ椅子なのでしょうか )
ある日、わたしの家は 火事になりました。
家の中のものは 全部焼けてしまいました。
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アパートに引越した わたしたち。
壁を黄色にぬり、床をぴかぴかに しました。
だけど、家の中は がらんとしています。
近所の人たちが、
ピザ、ケーキ、アイスクリーム、それから、いろいろなものを持ってきてくれました。テーブル、椅子3つ、ベッド、きれいな絨毯、カーテン、おなべ、スプーン、おさらを持ってきてくれました。従姉妹はくまの縫いぐるみをくれました。
「ごしんせつにありがとう。まだまだわかいから、これからよ」
おばあちゃんが言いました。
ご近所の人たちは、パチパチと手をたたきました。
かあさんを休ませたいと思っている わたし。
おばあちゃんに楽に料理をさせたいと思っている わたし。
(椅子を買いたいわけが分かりました。)
壜が一杯になって、銀行で10ドル札に換えました。
そして、家具屋さんで見つけました。
夢にまで見たいすを。
いすを窓のそばに置きました。
おばあちゃんは、昼間じゅういすに座って、ご近所の人と話をしています。
かあさんは、仕事から帰ると、いすに座って、テレビのニュースを見ます。
わたしは、かあさんといすに座ります。
そして、寝てしまいます。
かあさんは、そーっと電気を消します。
ウェイトレスをして、一家を支えているかあさん。ユーモアのあるおばあちゃん。わたしの家族は、けっして裕福とはいえませんが、助け合いながら前向きに生きています。
火事ですべてを失くした家族に、手をさしのべる近所の人たちがいます。さまざまなものを持ちより、この家族を支え助けている姿に心打たれます。ベラ. B. ウィりアムズには、続編の『ほんとにほんとにほしいもの』『うたいましょうおどりましょう』があります。
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※『かあさんのいす』 ベラ. B. ウィりアムズ作・絵、佐野洋子訳、あかね書房、1984年 (2022/9/9)