ふるはしかずおの絵本ブログ3

『 パンのかけらと ちいさな あくま 』- ちいさなあくまは、良いあくま?

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バルト三国のひとつ、
リトアニアの民話です。
     ・・・
貧乏な木こりから 弁当のパンを盗んだ ちいさな あくま
得意げに、パンのかけらを 持ちかえります。
おおきな あくまたちは かんかんに怒って、
     
 いますぐ あやまりにいけ。
 おわびのしるしに はたらいてこい。
 なにか やくにたつことを やってこい。
 それまでは、かえってくるな!

 ( 貧しいものからの盗みです。あくまにも倫理感があるんですね。)
      ・・・
ちいさな あくまは、木こりに言います。        
おわびに なにか させてください
どろどろの沼地を 麦畑にかえることは できるかい。
できます、できます
ちいさな あくまは、
地主のゆるしをもらった どろ沼を 見事な麦畑に 変えました。
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すると、
強欲な地主は、できた麦を全部持っていってしまいます。
ちいさな あくまは、ひと束だけ わけてくれるように 頼みます。
そして
ながい 
ながい
とてつもなく ながい縄を つくります。
 ( 結果は なんとなく わかります。 )
この縄で、麦をすべて 縛ってしまいました。
 ( やっぱり。 )
     ・・・
怒った地主は、牡牛を追い立て おそいかからせます。
でも、ちいさな あくまは、( 機転をきかせて )牡牛たちの背に 麦をのせ 全部もってかえりました。
地主は、それを見て ひっくりかえって しんでしまいました。
木こりに 麦と牛をわたして、ちいさな あくまは、うちへ帰ります。
 ( 戻ることを、きっと許されたことでしょう。)
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起承転結の はっきりとした昔話です。ちいさな あくまは、いたずらっ子のようです。でも、智恵のある あくまです。 よい・あくま? 画家の堀内誠一さんは、表現のむずかしいこの人物を魅力的に描きました。 一方、あくどく非道な地主は、絵をみるだけでわかります。
おおきなあくまの言葉、ちいさなあくまの知恵と行動は、リトアニアの人たちの倫理感の表現です。そこに共感します。共感を通して、リトアニアの人たちとつながります。
フランスの思想史家 ポール・アザール(1878-1944)は、よい本とはなにかについて、高い道徳性をそのひとつにあげていました。
      ・・・
※『 パンのかけらと ちいさな あくま 』 リトアニア民話  内田莉莎子再話  堀内誠一画   福音館書店  1992年
   
【 追 記 】
ポール・アザールの言葉です。
「つまり、わたしが愛しているのは、高い道徳性を持った本なのである。・・・いつまでも変わらない真理、人間の魂を生き生きとさせ、奮いたたせるような真理を豊かに持っている本をわたしは愛するのである。私心のない誠実な愛情を持っているものは、いつかはきっと報いられるだろうし、たとえ他人によって報いられることがなくても、その人自身にプラスする点は大きいはずであることを教える本、羨望とかねたみとか貪欲とかがどんなに醜く低劣なものであるかを示す本、悪口をいったり、嘘ばかりついている人間が、しまいには、口を開いてなにかいうたびに、まむしやがまが飛びだすようになってしまうといった話をのせた本を、わたしは愛する。つまりわたしは、真理と正義に対する信頼をつちかうことをその役目としているような本を愛するのだ。」(ゴシック体は私の強調)
『 本・子ども・大人 』 矢崎源九郎、 横山正矢訳、 紀伊国屋書店 (2017/1/18)

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