ふるはしかずおの絵本ブログ3

『ヘンリー・ブラウンの誕生日』-それは逃亡が成功した日


「プラトンはかつて、奴隷を他人の目的を実行させられている人であると定義した。」      デューイ、市村尚久訳『経験と教育』
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奴隷制とはなにか
この絵本は、実在したヘンリー・ブラウン(1816年頃-1897年)の前半生を通して、その真実を語ります。
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ヘンリー・ブラウンは、奴隷です。
自分の年齢も、誕生日も知りません。
彼の主人は、ヘンリーの家族によくしてくれました。
しかし、母は知っていました。
「木の葉が枝からひきはなされるように、奴隷の子どもは、家族からひきはなされるものなんだよ
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主人が死に、ヘンリーは、新しい主人のたばこ工場で働くことに。
ある日、ヘンリーは、ナンシーと出会います。
ひかれあう ふたり。
ヘンリーとナンシーは、それぞれの主人の許しをうけ、夫婦になります。
3人の子どもにも恵まれました。
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ある日、友人のジェイムズが 妻と子どもが、奴隷市場で売られたことを告げます。
昼休み、町まではしり、家族をさがすヘンリー。
とうさん! とうさん!
しかし、なにもできないヘンリー。
彼は、遠ざかる子どもたちを ただ見つめるしかありませんでした。
ヘンリーは知っていました。家族とはもう二度と会えないことも。
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ここから、後半です。ヘンリーが誕生日をもつまで。
広い空を自由に飛ぶ小鳥の声、
ヘンリーは、自由になりたいとつよく思います。でも、どのようにして?
奴隷制のない州へ、自分を小包にして送ることで。
友人のジェイムスと奴隷制に反対の白人の医師スミス先生に助けられて、彼は木箱のなかに入ります。

ペンシルべニア州フィラデルフィア市アーチ通り
ウィリアム・H・ジョンソン様
取扱注意! この面を上に!

その道中の苦痛にみちたものでした。(下の絵)。
その木箱は、ほうりなげられ、
さかさまになり、
頭に血がのぼり、目が ずきずきいたみます。
そして、27時間かけて、ついにフィラデルフィアへ。

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1849年3月10日、ヘンリーは自由になりました。
だれもが、彼をこう呼びます。ヘンリー・ボックス・ブラウンと。
おはなしは、ここでおわります。この後、彼は、愛する妻や子どもたちと会えたのでしょうか。会えなかったのでしょう。
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絵本に描かれた過酷な運命は、実際にあったことでした。著者の「はしがき」によれば、1800年代のなかごろ、アメリカには400万人もの奴隷がいたそうです。 奴隷は家畜や家具と同じように、もの扱いでした。そのようななか、6万から10万人の奴隷が、自由を求めて北部へ逃亡を企てたといわれます。彼らは「地下鉄道」(南部から北部へ逃げる奴隷を手助けする組織)を通して逃亡しました。へンリー・ブラウンはそのもっとも有名な人物でした。こうしたことを、わたしは初めて知りました。
子どもたちに読んでやりたい一冊です。奴隷制の真実をかたる絵本として、自由とは何かを考える本として、そして過酷な運命のなかで人生を切り開いていった人物たちがいたことを教える本として。2008年コルデコット賞オナー賞受賞作品です。
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※『 ヘンリー・ブラウンの 誕生日 』 エレン・レヴァイン作、カディール・ネルソン絵、千葉 茂樹訳、 鈴木出版 2008年 (20116/9/30)

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