ふるはしかずおの絵本ブログ3

『ぜつぼうの濁点』- 笑いのなかの悲哀

濁点「 ゛」が体験する「ぜつぼう」と「きぼう」のはなしです。

      ・・・

昔、あるところに

言葉の世界が ありました。

その真ん中に おだやかな ひらがなの国がありました。

    

その、ひらがなの国で起きた椿事です。

    

ある日、

「や」行の町に、

「 ゛」(濁点)が置き去りにされていました。

   

濁点は、言います。

   

 「ぜつぼう」に長年つかえてきたが、    ・

 主の「ぜつぼう」が不幸なのは、

 自分の「だくてん」のせいではないか。

 じぶんがいなければと考え、

 わたしを捨ててくださいと、主に頼んだ、

 と言うのです。

    

濁点は、正座をして「や」行の住人に頼みます。

「わたしを もらってください」

「お断りだ」

濁点は、ためいきをつきました。

そこへ

「おせわ」が、やって来ました。

「おせわ」は、濁点を「せ」に乗せ、

「し」の沼へ 放りこみました。

  

 あ!

 

濁点は、沼の底に 落ちていきました。

 

 これでいいのだ。

 これでよかったのだ・・・

   

そのつぶやきは、

「きほう」(気泡)の三文字となって ふわふわ 漂いました。

早く 自分にくっつけ!

   

濁点は、あわてて「きほう」の「ほ」の字にくっつきました。

それは、

「きぼう」となり、

水面にうがびあがり、

大気にとけ、この世を満たしました。

    

「絶望」の濁点は、

「希望」の濁点になったのでした。

奇抜な設定で、エスプリに富んだはなしです。

笑いの中に悲哀がない交ぜになっています。

そして、ハッピーエンドです。

濁点「 ゛」がどの字に付くかで、濁点「 ゛」の状況が変わりました。「ぜつぼう」が「きぼう」になったのは、言葉の上のことでしたが、コインの表を裏にかえすような体験は、リアルな世界においても、きっとあることでしょう。

 

柚木沙弥郎さんの「ぜつぼう」「おせわ」「きぼう」などの絵は、シュールな感じで遊び心を感じます。

      ・・・

※『ぜつぼうの濁点』 原田宗典作、柚木沙弥郎絵、教育画劇 2006年 (2022/8/28)

SHARE