100万回も死んで、100万回も生きた ねこの はなしです。
・・・
ある時は 王様の 猫となり、
ある時は 船乗りの 猫、
サーカスの 手品つかいの 猫、
どろぼうの 猫、
ひとりぼっちの おばあさんの 猫、
小さな 女の子の 猫になりました。
飼い主達のことが 大嫌いだった 猫。
誰にかわれていた時も、猫は 不幸な死に方をしました。
でも、
猫は、死ぬのなんか 平気だったのです。
猫は、1回も 泣きませんでした。
ある時、
猫は 誰の猫でもない のらねこになりました。
めす猫たちが すり寄って、およめさんになりたがっても、
猫は、
「いまさら おっかしくて!」と いいました。
猫は、だれよりも 自分が すきだったのです。
猫は、
うつくしい白いねこに 会います。
白いねこに いいました。
「おれは、100万回も 死んだんだぜ!」
「そう」
と 白いねこは いったきりでした。
猫は、何回も 白いねこの気を ひこうとしますが・・・
白いねこは、
そのたびに
「そう」
と いうだけでした。
ある時、
「そばに いても いいかい」というと、
「ええ」
と 白いねこは いいました。
ふたりは一緒になり、
たくさんの子ねこが うまれました。
子ねこたちは、独立して
りっぱな のらねこに なりました。
白いねこは すこし おばあさんに なりました。
猫は、白いねこと いつまでも 生きていたいと 思いました。
ある日、
白いねこは うごかなく なりました。
猫は うまれて初めて 泣きました。
100万回も 泣きました。
そして、
ある日
猫は、白いねこの隣で、うごかなく なりました。
猫は けっして 生きかえりませんでした。
白いねこと出会って、はじめて恋をした猫。白い猫に恋したことで生まれた、あたらしい感情と体験が、猫を変えていきます。「おれは、100万回も・・・」とは言わなくなった猫は、自分よりも、白いねこと子ねこが好きになったのです。自分ではなく、誰かのために生きることの大切さに気付いたのです。
「100万回も死んで、100万回も生きた」ことは違いますが、猫は、ある意味、永遠のいのちを得たように思います。白いねこへの愛と子どもの猫たちの未来のなかに。
・・・
※『100万回生きたねこ』 佐野洋子作・絵、講談社 1977年 (2023/1/17)