ふるはしかずおの絵本ブログ3

『三ねんねたろう』- 「ここに 水が あるがな」

とんと むかし。

ねんがらねんじゅう、

ねてばっかり ねたろうという 若者がいた。

   

 

 うちの むらには

 ねたろが ござる

 ねたろ ねていりゃ

 としが たつ

 やいとこせ よいとこせ

    

  

ねたろうは、みんなに ばかに されていた。 

でも、

はじめから ねたろうだった わけではない。

前は みなが 感心する 働き者だった。

   

   

ねたろうの村は、

水を引く 川がなく、

夏には かんかんでりの 日がつづいて

お米が とれん。

    

病気の おっかさんは、

「いまちっと おこめの ごはんが たべたいのう」と言っていたが、

ある日、ぽっくり しんでしもうた。 

    

ねたろうが ねたろうになったのは、その年の夏だった。

    

    

ねたろうは、いつまでたっても 起きてこない。

お役人が どなっても 鞭で たたいても 起きない。

   

  

三ねん三つきが たった 秋祭りの日、

ねたろうが むっくら 起きた。

   

 「ねたろうが おきよった

    

ねたろうは 大きな川まで いき 

川を 指さして 

ばかでかい 声で

ここに 水が あるがな

と いうた。

   

   

 「むらの もんで、みなで ひくんや

    

あくる朝、

ねたろうは ひとりっきりで 溝を 掘りはじめた。

子どもが てつだい、掘りつづけた。 

 

村の みんなが 掘り、   

なんと、

あくる年の春には、 

ながい ながい 用水路が できてしもうた。

   

それからというもの、

毎年、じゃんと お米が とれたそうな。

    

           ・・・

ねたろうが寝たろうになったわけ、ねたろうが起きたわけについては、書かれていません。人物の心理ではなく、行動を描くのが民話や昔話の特徴です。

     

作者の大川悦生さんは「あとがき」に書いています。ねむりを貪るねたろうは、江戸時代の農民にとって、いちばん贅沢なことをしている。また、役人を出し抜くねたろうは、農民の夢と願いを実現した「英雄」であると。

            

語り口調と声喩に、おもしろさがあります。「ぐったら ぐうち ねておった」「いねは しおしお かれてしまう」「むっくら おきた」「うんころ よいこら どっこうせ」「じゃんと おこめが とれたそうな」などの声喩。「おった」「あった」の常体の文末表現も端切れのよい調子です。

語りを楽しむ絵本です。

     

       ・・・

※『三ねんねたろう』 大川悦生文、渡辺三郎絵 ポプラ社 1967年 (2024/2/18)

SHARE