「ぼく」の視点(一人称視点)です。
喧嘩に負けた「ぼく」の気持ちが手に取るように分かります。
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「ああ、くやしい。ぼくは、けんかにまけたんだ」。
まわりが、がらんと静かになり、
ぼくの目から 涙が、わいてきます。
まつげの向こうに、秋の空。
青い空は、
海のように見えます。
虹色に光る海。
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まつげの海(涙の目のなか)で、
虫のような魚が、およいでいます。
(ここから、ファンタジーの世界に入ります)
虫のようなさかなを ぱくりと食べる
メダカのこどもみたいな さかな 。
メダカのようなさかなを ぱくりと食べる
イワシのこどものような さかな。
ぱくり
ぱくり
ぱくり
さかなは、(くりかえしの中で)
サンマくらいに、
マグロくらいに、
イルカくらいになります。
そして、虹色のさかなは、クジラくらいになりました。
くじらは、もう飛行船です。
ぼくは、飛行船にのりました。
( こどは、海から空へと空想がひろがります )
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飛行船が、いいます。
「ちょっと 重いなあ。心のにもつを おろしてくれよ。」
「心のにもつって?」
「めそめそ心をすてて、たのしいことを かんがえるんだ。」
ぼくは楽しいことを考えます。
そのたびに飛行船は、
ぐんぐん空にのぼります。
空想のたびに、
仕返しをしたいという
ぼくの気持ちは 消えていきました。
ぼくの空想は、
あいつ(喧嘩相手)を 飛行船から釣り上げる、
おしりまるだしで 海にドボンと落とす、
「あいつ、おちんちんを さかなに ぱくりとたべられちゃうんだ」
おんなのこの服を着せられる あいつ、
ぴいぴい泣き出す あいつ、
だから、ぼくは もう、あいつとなんかとけんかしない。
にじいろのさかな(飛行船)は、こんどは ずんずん陸地へ。音をたてて縮んでいきます。気がつくと、ぼくの周りに先生とともだちがいます。(現実の世界にもどります)
ふたりは、まだお互いに悪態をついていますが、
「こら!」。
先生が叱ると。
けんかはおわり。空にはさかなのような雲が浮かんでいます。
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ぼくの心の変化が、ファンタジーをまじえて語られます。タイトルにもなっている「まつげの海」に「ひこうせん」が現れるファンタジーが洒落れています。 その入り方や大きな「ひこうせん」が現れるイメージの流れも自然です。想像の世界で「あいつ」をやっつける「ぼく」に共感する子もいることでしょう。
デザイン性豊かな絵、ぼくの感情をストレートに描いた絵です。杉浦範茂さんは多彩な絵を構成して、ぼくの気持ちの変化を描いています。
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※『まつげの海のひこうせん』 山下明生絵、杉浦範茂絵、偕成社 1983年 (2020/10/6)