カ(蚊)のささいなひとことが、思わぬ大事件をひきおこします。
西アフリカの民話です。
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ある朝、
イグワナが、水を飲んでいると、カが、やってきて言いました。
「あのねえ、おひゃくしょうが、あたしくらいある ヤマイモを、ほってたの」。
そんなばかな。
「ヤマイモに くらべたら、じぶんが どんなに ちいさいか、しっているくせに!」
イグワナは、めく、めく、めくと 行ってしまいました。ここから、くりかえしです。
ぶつぶつ言って 口をきかない イグワナ。
ニシキヘビは、「ぼくに 悪さをしようとしているんだ」と誤解。
ニシキヘビは、急いでウサギあなへ。
びっくりしたのは、ウサギです。
ウサギは くりっく、くりっく はねていきます。( 上の絵 )
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それを見て、カラスは カーカー。
サルは、危険を感じて、キイキイ。
サルは、枯れ枝を落として、赤ちゃんフクロウを殺してしまいました。
かあさんフクロウは悲しみ、夜がいつまでも続きました。
( 夜が続いたのは、どうして? )
おひさまをおこすのが かあさんフクロウの役目。でも、悲しみのあまり、ホーホーとは鳴かなかったからです。( 下の絵 )
ここまでが前半。
後半のはじまり。
太陽が昇らなくなり、あたりは真っ暗。おうさまライオンは、動物会議を開きます。
サルは、言います。フクロウの赤ん坊を殺したのは、カラスが原因だと。
カラスは、ウサギが原因だと。
ウサギは、ニシキヘビと。
ニシキヘビは、イグワナと。
イグワナは、言います。
ニシキヘビに「おはよう」を言わなかったのは、カの嘘を聞きたくなかったら。だから、
「カの やつが わるいんです。」
これを聞いて、かあさんフクロウは、ようやく気がすみました。
そして、顔を東に向け、ホー、ホーオオ、ホーオオオオ!
その声を聞き、おひさまが のぼってきました。
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ところで、カ(蚊)は?
カは、気がとがめているのです。いまでも、人間の耳にささやきます。
「ブーン! まだ、みんな、あたしの ことを おこっている?」
すると、にんげんの 返事は?
パチン!
カが、ぶんぶんいうのはこのような訳があったのです。お話とレオ&ダイアン・ディロンの絵で、子どもたちにアフリカが身近になるように願います。1976年のコルデコット賞受賞作品です。
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※『どうしてカはみみのそばでぶんぶんいうの?』 ヴェルナ・アールデマ文 レオ・ディロン、ダイアン・ディロン絵 やぎたよしこ訳 ほるぷ出版 1978年
【 追 記 】
絵本のなかの、ユニークなオノマトペ(声喩)をあげておきます。
めく、めく、めく (イグワナが、立ち去る)
わさうす、わさうす (ニシキヘビが、穴に入る)
くりっく、くりっく (ウサギが、跳ねる)
ぺん、ぺん、ぺん (どうぶつたちが、会議にやって来る)
りむ、りむ、りむ、りむ (サルが、心配そうにやって来ます)
ばだみん、ばだみん (イグワナが、やって来ます)
ぷらっぷ、ぷらっぷ (ライオンが、イグワナの耳から木の枝を抜きます)
草が生い茂っていることを、エチオピアの人たちは「レメレメ」というオノマトペで表現するそうです。ところ変われば品変わる。オノマトペ(声喩)は、その直感的な表現で民族の耳を育てます。 (2016/11/11)