
子どもたちが、歌で悪者に勝つ物語。
その歌声の向こうには、ホロコーストという現実が、ありました。
ペピチェクと いもうとのアニンカは
病気のお母さんに 飲ませる
ミルクを 買おうと、町へでかけます
でも、お金が ありません
ふたりは、
町の広場で 歌をうたって お金をかせごうとします
でも、手回しオルガンを 鳴らす
ブルンディバールに 追い払われて しまいました
ふたりを 助けたのは
スズメ、ネコ、イヌ
ススメが つれてきた 学校の 子どもたちです
みんなで 広場で 歌いはじめます
ひとりでは、ブルンディバールに 追い払われてしまった
兄妹も、
なかまと 声を合わせて 歌うと、
町の人々が 集まってきます
ブラボー! すてき! うまいぞ!
コインが なげられた
ミルクが 買えそうだ
でも、お金が 盗まれた!
盗んだのは、ブルンディバール
みんなで ブルンディバールを やっつける
ぼくらの かちだ!
みんな ありがとう!・・・
これで、びょうきの かあさんに
おいしい ミルクが あげられる!
ゆうきを だして たたかえば
こどもだって わるいやつに かてるんだ!
・・・
子どもたちが、悪者ブルンディバールを打ち負かす、痛快なお話です。また、省きましたが、絵本のなかにたくさんの歌があります。子どものオペラです。
元になったオペラ『ブルンディバール』は、第二次世界大戦中、テレージエンシュタットのゲットーで、ユダヤ人の子どもたちによって演じられました。舞台の上では悪者に勝つことができても、子どもたちが生きていた現実は、歌声だけでは乗り越えられない暴力がありました。上演後、多くの出演者が、アウシュヴィッツへ移送され、命を奪われました。
モーリス・センダックは、町の人びとと町のにぎわい、子どもたちの生き生きとした表情、そしてブルンディバールの恐ろしい姿を、細部まで描きこんでいます。このオペラを演じた子どもたちのその後を思うと、絵のなかで生き生きと輝く子どもたちの姿に、胸が締めつけられます。この絵本は、物語のなかの勝利を描きながら、私たちに希望とは何かを問いかけているように思います。
・・・
※『ブルンディバール』トニー・クシュナー再話、モーリス・センダック絵、さくまゆみこ訳、徳間書店、2009年
【追記】
センダックの絵には、ホロコーストの記憶が描き込まれています。
ユダヤ人であることを識別するために、ナチスによって強制された「黄色い星」、「Arbeit Macht Frei」(「労働は自由をもたらす」)という標語が、絵のなかにあります。アウシュヴィッツなどの収容所の入口に掲げられた言葉です。「あたりは、ふるぎや ぼろぐつだらけ」の文と絵は、収容所やゲットーの記憶を呼び起こすものです。
また、悪役ブルンディバールは、当初、ヒットラーを描こうとしていたようですが、絵本ではナポレオンを思わせる二角帽子を身に着けています。歴史上の暴君の性質を併せもつ存在にすることで、現代にも通ずる問題を提示しています。









