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濁点「 ゛」が体験する「ぜつぼう」と「きぼう」のはなしです。
・・・
昔、あるところに
言葉の世界が ありました。
その真ん中に おだやかな ひらがなの国がありました。
その、ひらがなの国で起きた椿事です。
ある日、
「や」行の町に、
「 ゛」(濁点)が置き去りにされていました。
濁点は、言います。
「ぜつぼう」に長年つかえてきたが、 ・
主の「ぜつぼう」が不幸なのは、
自分の「だくてん」のせいではないか。
じぶんがいなければと考え、
わたしを捨ててくださいと、主に頼んだ、
と言うのです。
濁点は、正座をして「や」行の住人に頼みます。
「わたしを もらってください」
「お断りだ」
濁点は、ためいきをつきました。
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そこへ
「おせわ」が、やって来ました。
「おせわ」は、濁点を「せ」に乗せ、
「し」の沼へ 放りこみました。
あ!
濁点は、沼の底に 落ちていきました。
これでいいのだ。
これでよかったのだ・・・
そのつぶやきは、
「きほう」(気泡)の三文字となって ふわふわ 漂いました。
「早く 自分にくっつけ!」
濁点は、あわてて「きほう」の「ほ」の字にくっつきました。
それは、
「きぼう」となり、
水面にうがびあがり、
大気にとけ、この世を満たしました。
「絶望」の濁点は、
「希望」の濁点になったのでした。
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奇抜な設定で、エスプリに富んだはなしです。
笑いの中に悲哀がない交ぜになっています。
そして、ハッピーエンドです。
濁点「 ゛」がどの字に付くかで、濁点「 ゛」の状況が変わりました。「ぜつぼう」が「きぼう」になったのは、言葉の上のことでしたが、コインの表を裏にかえすような体験は、リアルな世界においても、きっとあることでしょう。
柚木沙弥郎さんの「ぜつぼう」「おせわ」「きぼう」などの絵は、シュールな感じで遊び心を感じます。
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※『ぜつぼうの濁点』 原田宗典作、柚木沙弥郎絵、教育画劇 2006年 (2022/8/28)