ふるはしかずおの絵本ブログ3

『まつげの海のひこうせん』-けんかをした ぼく

「ぼく」の視点(一人称視点)です。

喧嘩に負けた「ぼく」の気持ちが手に取るように分かります。

    

      ・・・

ああ、くやしい。ぼくは、けんかにまけたんだ」。

 まわりが、がらんと静かになり、

 ぼくの目から 涙が、わいてきます。

 まつげの向こうに、秋の空。

 青い空は、

 海のように見えます

 虹色に光る海。

      ・・・

まつげの海(涙の目のなか)で、

虫のような魚が、およいでいます。

  (ここから、ファンタジーの世界に入ります)

 

 虫のようなさかなを ぱくりと食べる
 メダカのこどもみたいな さかな

 メダカのようなさかなを ぱくりと食べる

 イワシのこどものような さかな。

 

 ぱくり

 ぱくり

 ぱくり

 さかなは、(くりかえしの中で) 

 サンマくらいに、

 マグロくらいに、

 イルカくらいになります。

 そして、虹色のさかなは、クジラくらいになりました

 くじらは、もう飛行船です。

 ぼくは、飛行船にのりました。

  ( こどは、海から空へと空想がひろがります )

     ・・・

飛行船が、いいます。

 「ちょっと 重いなあ。心のにもつを おろしてくれよ。」

 「心のにもつって?」

 「めそめそ心をすてて、たのしいことを かんがえるんだ。」

 ぼくは楽しいことを考えます。

 そのたびに飛行船は、

 ぐんぐん空にのぼります。

 空想のたびに、

 仕返しをしたいという

 ぼくの気持ちは 消えていきました

      

ぼくの空想は、

 あいつ(喧嘩相手)を 飛行船から釣り上げる、

 おしりまるだしで 海にドボンと落とす、

 「あいつ、おちんちんを さかなに ぱくりとたべられちゃうんだ」

 おんなのこの服を着せられる あいつ、

 ぴいぴい泣き出す あいつ、

 だから、ぼくは もう、あいつとなんかとけんかしない。

にじいろのさかな(飛行船)は、こんどは ずんずん陸地へ。音をたてて縮んでいきます。気がつくと、ぼくの周りに先生とともだちがいます。(現実の世界にもどります)

ふたりは、まだお互いに悪態をついていますが、

こら!」。

先生が叱ると。

けんかはおわり。空にはさかなのような雲が浮かんでいます。

    

           ・・・

ぼくの心の変化が、ファンタジーをまじえて語られます。タイトルにもなっている「まつげの海」に「ひこうせん」が現れるファンタジーが洒落れています。 その入り方や大きな「ひこうせん」が現れるイメージの流れも自然です。想像の世界で「あいつ」をやっつける「ぼく」に共感する子もいることでしょう。

  

デザイン性豊かな絵、ぼくの感情をストレートに描いた絵です。杉浦範茂さんは多彩な絵を構成して、ぼくの気持ちの変化を描いています。

      ・・・

※『まつげの海のひこうせん』 山下明生絵、杉浦範茂絵、偕成社 1983年  (2020/10/6)

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