ふるはしかずおの絵本ブログ3

『さくらが さいた』- 戦時の思い出、平和への願い

戦争中、大好きだった 犬のクロとの別れを

おばあちゃんが、まごのクミに かたります。

 

    

お風呂屋の かえり、

クミと おばあちゃんは

土手道の さくらを 見ていると

まっくろな いぬが クミの胸に とびつきました

   

 「だいじょうぶ。ほら、しっぽを ふっているもの」

  と、おばあちゃんが いいました

    

     

くろい いぬが、

男の子のもとに はしって かえるとき

おばあちゃんは くろい いぬを ぼんやり みています

   

 「とうしたの? おばあちゃん」

    

 「おもいだしたのよ。

  ずうっと むかしの ことをね
     
   

おばあちゃんは 

大連で 暮らしていた頃のはなしを クミに しました

 

  

 「あのころ、うちに いまの 犬と 

  そっくりな 犬が いたのよ

  

 

わたしは 「クロ」という名の 犬と 友だちだった 

戦争が 終わり

日本に 帰るとき、

クロを となりの ソフィアさんに 

ひきとって もらったの

   

 

埠頭の ちかくの 収容所に 2日間 すごしたとき

鉄条網の むこうに クロが きていたのよ

   

    

クロったら うれしかったのね

いきを はずませ、

しっぽを ちぎれるように ふっているの

     

   

ひきあげ船まで ついてきたけど

だめだった

ソ連の ひとりの 兵隊が クロを 板で うちすえた

わたしは、船のデッキから みていて 泣いた

  

 「クロ― クロー かえってよう

  ソフィアさんちに かえってよう」

    

クロは 桟橋の 先まで はしったの

そして

あとを ひく 遠吠えを くりかえした

あの声は、いまも きこえてくる・・・

   

    

さくらが 咲いています 

クロと あそんだ あのときも さくらが さいていた

おばあちゃんは 

クロが 帰ってきたような

ふしぎな ゆめを 見たような 気がしました

  

          

おはなしは、クミとおばあちゃのお風呂帰りの「いま」から、戦争中を「回想」する「わたし」のはなしに入り、もういちど「いま」にもどる構成です。いわゆる額縁構造です。

      

こうした構成によって、クミに同化する読者を、むかしの「わたし」へ、スムーズにつなげる効果があります。当時の「わたし」の体験を、同年代のクミちゃんに語ることで、戦争の本質を読者に身近なことにしています。

      

「わたし」は、戦争中、中国の大連で少女時代をすごした作者、あまんきみこさんの分身です。

      

戦争当時の「わたし」と現在の「クミちゃん」を重ねあわせています。そして、平和への願いをしずかに語っています。戦争は、子どものところにまでやってきました。

             ・・・

※『さくらが さいた』 あまんきみこ作、鎌田暢子絵、文研出版 2025年

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