アイヌの神話の絵本です。
副題は「ふくろうのかみの いもうとの おはなし」。語り手のわたしは「ふくろうのかみの いもうと」です。
わたしの おにいさまは にんげんの むらを まもる ふくろうの かみさま。いもうとの わたしも かみさまの おんなのこ。・・・でも、かみさまの ほんとうの すがたは にんげんと そっくり。
わたしは、まっくろな ひょろひょろぼうずに さらわれてしまいます。
たすけて おにいさま!
でも、ふねに のせられ、
たくさんの よる
たくさんの ひる
とおくへ とおくへと ふねは すすみます。
鳥のはねの 海を わたり、ふわふわ ひらひら もくもく。
竹の 海を わたります、びっしゃん ざざざざざ びっしゃん ざざざざざ。
雲の門をくぐり、魔物の世界、ばけもの世界へ。洞穴に入ると、ぎらりぎらり、きらりきらり、ばけものの赤い目、金色の目がひかります。にょろりにょろり、べろののびた口。
さいごの 広い部屋には、
うおほおほおほお ! ばあばあばあ!
魔王が笑っています。
・・・
何日かたったあと、
どどどどと ばりばりばり
だれかが 助けにきてくれました。
「まおうよ! ・・・おまえは じごくに おとしてやる!」
だれかが、わたしを 吹きあげ、わたしは 雲のなか。
雲は ひとっ飛び。わたしを なつかしい村へと つれてかえります。
たすけてくれたのは、
はんぶん かみさま
はんぶん にんげんの
としわかい えいゆう アイヌラックルさまだわ!
村にかえり、
おにいさまから しんせきの若者の アイヌラックルに 助けをたのんだのだと 聞かされます。
「おれいに ごちそうをしよう」。
ふたりは、おもち、おだんご、おさけを 用意します。
そして、ごちそうの日、おにいさまは、アイヌラックルさまに言います。
「いもうとと けっこんしてくださいますか」
・・・
はんぶん かみさま
はんぶん にんげんの
としわかい えいゆう アイヌラックルさまと
ふくろうの いもうとかみの わたしは、
アイヌラックルさまの 山のおしろで、 いまも なかよく くらしています。
・・・
絵本では場面が変わるたびに「トーキナ・ト」の言葉がでできます。掛け声のようです。「トーキナ・ト」のくりかえしは、心地よい響きになっています。文章にリズムがあり、口承文芸の味わいがあります。じっさいに、絵本で味わってほしいところです。また、アイヌの詩人で布絵作家の宇梶静江さんの刺繍がすばらしい。存在感のあるフクロウの神、おどろおどろしい魔物の世界が布絵で描かれています。
※『トーキナ・ト』 津島佑子作、宇梶静江・刺繍、杉浦康平・構成 福音館書店 2008年
【 追記 】
作家の津島佑子さんは、久保寺逸彦編著『アイヌ叙事詩 神謡・聖伝の研究』(岩波書店、1977年)をもとに、このおはなしを書かれました。子ども向けの絵本のため、カムイ・ユカラ(神謡)の省略やわかりやすい言葉への言い換えをしなければならなかったと解説で語っています。タイトルにもなっている「トーキナ・ト」という言葉ですが、その意味はよくわからないようです。久保寺逸彦氏の『アイヌの文学』(岩波新書 1977年)もあげておきます。
宇梶静江さんの絵本作品は他に『シマフクロウとサケ』『セミ神さまのお告げ』(いずれも福音館書店)があります。俳優の宇梶剛士さんはご長男です。 (2016/12/17)