土の笛の音は、反戦の思想と平和への願いをつたえます。
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北と南に、ふたつの国がありました。
国と国のあいだには、高い山が続いていました。
「南の国には、わにのように おそろしい人間が すんでいる。」
「北の国には、くまのように おそろしい人間が すんでいる。」
ふたつの国のひとたちは、そう信じていました。
ふたつの国は、とうとう いくさを始めてしまいました。 山のあちこちで、戦いが始まりました。たくさんの兵隊が死にました。
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冬が来ました。
山はふかい雪につつまれました。 兵隊たちは塹壕の中で冬をすごしていました、
ある日、北の国のわかい兵隊が、土のふえを作りました。羊飼いでした。土ぶえの音は、南の国の兵隊にもかすかに聞こえました。
南の国のわかい兵隊も、土のふえを作りました。やさしい音がしました。彼は牛飼いでした。
春がきました。
北の国の兵隊(羊飼い)と南の国の兵隊(牛飼い)が、 偵察中にばったり出くわし、ふたりはあわてて隠れました。
そして、 ふたりは、ふえを吹きました。何度もふえで呼びあいました。ふたりの吹く音は、よくとけあい、うつくしく響きました。
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それから間もなく、戦いは終わりました。北の国と南の国の兵隊たちは山にのぼります。先頭は、ふえを吹くふたりです。ふたつのふえの音は、山の頂上でひとつになりました。
青い空には、たくさんの鳥が飛びかっています。
毎年、春になると、山をこえる渡り鳥の群れでした。
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文化が違い交流もないふたつの国があります。偏見にとらわれ自分が正しいと信じるひとたち。となりの国を滅ぼさなければならない考えるひとたち。相手のことをよく知らないのに戦うひとたちがいます。憎しみあうふたつの国と人々です。知らないから戦争を始めたのかもしれません。
「いくさを はじめて しまいました」「でくわしてしまいまた」と言う文末表現に語り手の思いを感じます。羊飼いと牛飼いの兵隊の思いも伝わります。
戦争が、姿をたくみに隠し、人びとの平和な日々にしのびよる
- そのおそろしさを伝えることが、子どもたちを守るひとつの手だ
てになると信じています。
アリス・ウォーカー『なぜ戦争は よくないか』
春になると山を越えて飛ぶわたり鳥。鳥たちに国境はありません。
Imagine there’s no countries
It isn’t hard to do
Nothing to kill or die for
And no religion too
Imagine all the people
Living life in peace
Imagine / John Lennon & Yoko On
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※『土のふえ』 今西祐行作、沢田としき絵、岩崎書店 1998年