この絵本は、長新太さんの心象風景ではないかと思いました。あるいは創造の秘密を語り、絵本作家としての自画像を描いたのかもしれません。
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ボクのうちから、でんしゃに のって、3つめの えきで おりて、すこし あるくと、かわが あるんだ。
そこは、
トリがいっぱいいる川。
そこに、ボクだけが知っている秘密があります。
トリたちが寄ってきます。
水の上で、いろいろな形になるトリたち。
トリたちは、
ゾウに なったり、
キリンに なっり、
ぱぁーと みんな 散っていったり、
クジラに なったり、
木に なったり、
山に なったりしています。
それはボクだけが知っていること。
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羽をふるわすと、水がひかって、星に見えます。それはボクのお気に入りです。トリたちは自分の好きなものしかやらない。ボクの好きなのは、トリたちがオカアサンやオトウサンになること。本物のオカアサンやオトウサンによく似ているんです。ボクのうちを観察しているに違いない。オカアサンとオトウサンとボクが並んでいるところを、いつかトリたちがやってくれるに違いないと、ボクは思います。
トリたちは、ゾウ、キリン、クジラ、木 …… 、水の上でいろいろな形になります。自然に群れているトリたちのすがたが、ボクにはそのように見えるのです。これらの順序にふかい意味はないようです。また、トリたちが意識してしているようにも見えません。
でも、自分の好きなものしかやらない トリたち。
ボクの思い通りのことをしてくれない トリたち。
トリたちの姿にはボクの心が投影されているようです。トリたちの形象は、そうありたいボクの形象です。自由に生きているトリたちへのボクの共感があります。タイトルを含め「トリ」と「ボク」は、すべてカタカナ表記です。トリとボクは対等であり、トリとボクはイコールです。
ボクは語り手ですが、作者であり、作家である長新太さんです。
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※『トリとボク』 長新太作 あかね書房 1985年 (2021/1/9)