月夜のファンタジーです。非現実な世界のなかに、祈り・願いごとがふくまれます。
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空に まあるい 月が のぼります。
月は、すきとおった ひかりを
はやしの なかに なげかけました。
すると、
むしたちは いっせいに 飛びたち
妖精になって おどり だしたのです。
月の ひかりは 野原に ひろがりました。
花のたねが 芽をだし
野原は
あっというまに
花で いっぱいに なりました。
月は 海を てらしました。
すると
さかなたちが
夜空に のぼって いき、
キラキラと 輝きながら
みんなで およぎ まわったのです。
月の ひかりは 家のなかに ながれこんで いきました。
すると
あかちゃんたちは、
目をさまし・・・
風船みたいに うきあがり
夜空を とびまわったのです。
ふしぎな月は、
とおい くににも
サバンナの 夜空にも
ジャングルの 夜空にも
戦場の 夜空にも のぼりました。
月よ、月。
おまえは いつも ながめている
この世の よろこび かなしみを
かけては みちる、月よ 月。
ずっと そこから てらしておくれ。
このよが やみに しずまぬように。
わたしが やみに のまれぬように。
月よ、月。
ふしぎな月。
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満月の夜は、なにかがおこりそうです。虫たちを妖精にし、のはらを花でいっぱいにして、海のさかなたちを月の下でおよがせ、あかちゃんを夜空に飛びまわらせます。満月は、戦場をふくめ、世界中を照らします。詩的な文章でつづられた、現実と非現実が一体となった月夜の世界です。
「このよが やみに しずまぬように。/わたしが やみに のまれぬように。」
道に迷い、闇にのまれるかもしれない わたしたちに、行くべき道を照らしてほしいという、月への祈りです。
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※『ふしぎな月』 富安陽子文 吉田尚令絵、理論社 2021年 (2024/5/29)