まど・みちおの詩に、柚木沙弥郎が絵をつけた絵本です。
「せんねん まんねん」の詩を紹介します。
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いつかのっぽのヤシの木になるために
そのヤシのみが地べたに落ちる
その地ひびきでミミズがとびだす
そのミミズをヘビがのむ
そのヘビをワニがのむ
そのワニを川がのむ
その川の岸ののっぽのヤシの木の中を
昇っていくのは
今まで土の中でうたっていた清水
その清水は昇って昇って昇りつめて
ヤシのみの中で眠る
その眠りが夢でいっぱいになると
いつかのっぽのヤシの木になるために
そのヤシのみが地べたに落ちる
その地ひびきでミミズがとびだす
そのミミズをヘビがのむ
そのヘビをワニがのむ
そのワニを川がのむ
その川の岸に
まだ人がやって来なかったころの
はるなつあきふゆ はるなつあきふゆの
ながいみじかい せんねんまんねん
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ヤシの実が落ちると、ミミズが飛び出し、ミミズをヘビがのみ、ヘビをワニがのむ、ワニを川がのむ生死の連環、自然の連鎖・・・ 詩の中に書かれたくりかえしは前連と後連の2回ですが、詩が始まる前、また終わった後にも、書かれてはいませんが、そのくりかえしが見えるようです。「せんねんまんねん」の「ながさ」を思います。「その川の岸に/まだ人がやって来なかったころ」の世界です。人がやって来たとき、自然は大きく姿を変えたことでしょう。
しかし、宇宙の歴史から見たら、人間の歴史は「みじかい」。宇宙の摂理は「ながいみじかい せんねんまんねん」の人間の歴史を飲みこんでいます。まど・みちおさんの存在論、時間論だと思います。難しい詩ですが、ヤシの実が落ち、その響きでミミズが飛び出すところにはユーモアを感じます。また、「その」という連体詞は、指さされた個々のものごとをしっかりと見るように私たちに迫っています。
染色家・柚木沙弥郎さんは、色彩に溢れた世界を描いています。形は抽象と具象の間にあります。このブログで紹介した『魔法のことば』の絵も柚木沙弥郎さんの作品です。
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※『せんねんまんねん』まど・みちお詩 柚木沙弥郎絵 理論社 2019年 (2020/4/23)