![](https://ehon.furuhashi-kazuo.com/wordpress/wp-content/uploads/2020/08/-2-e1597561136112.jpg)
中国青海省に住む、少数民族トゥ族の昔話です。
日本の「さるかに合戦」に似たおはなしです。
・・・
むかし むかし、
ある村に、おそろしい妖怪がいました。
ざんばら髪、青黒いかお、するどいきば、馬でも牛でも食べてしまう。
おばあさんの家にやってきて、子牛をひとのみ。
そして、
「あしたは、おまえを食いにくる。」
・・・
ひとりぼっちのおばあさんは、杖にすがって、外へ出ました。
「どなたか、わたしをたすけておくれ。」
「だいじょうぶ、きっとたすけてあげるから。」
声をかけたのは、
たまご、
ぞうきん、
かえる、
こん棒、
火ばさみ、
牛のふん、
石のローラー。
みんなが、言います。
「だいじょうぶ、きっとたすけてあげるから」
・・・
たまご、ぞうきん、かえるたちは、おばあさんの家で、妖怪が来るのを待ちかまえます。
それぞれの持ち場で、じっと眠ったふり。
![](https://ehon.furuhashi-kazuo.com/wordpress/wp-content/uploads/2020/08/-e1597561410228.jpeg)
やってきた妖怪。
はじめに、
囲炉裏の中のたまごが、妖怪の目にべたりとはりついく。
「いてててて!」
次は、ぞうきん。
ぞうきんは、力いっぱいね、びんたをくらわす。
かえるは、妖怪の鼻をふさぐ。
「く、くるしーい!」
・・・
火ばさみが、しっぽをはさみ、
こん棒は、ぽかぽかなぐる。
妖怪は、牛のふんをふんづけ、ひっくりかえる。
そこへ、
ごろごろごろ……
石のローラーがやってきて、
妖怪は、ひらたくのびて、ぺしゃんこになりました。
![](https://ehon.furuhashi-kazuo.com/wordpress/wp-content/uploads/2020/08/-e1597561522682.jpeg)
トゥ族は文字を持っていません。このお話は、口承で伝えられました。
ひとりぼっちのおばあさんを助けるのは、たまご、ぞうきん、かえる、火ばさみ、こん棒、牛のふん、石のローラーたちです。みんな、おばあさんの周りにあるものです。そうした人物がおばあさんに言います。「だいじょうぶ、きっとたすけてあげるから」。
助け合って暮らしてきた人々の歴史を見ることができます。
たまご、ぞうきん、かえる、火ばさみ、こん棒……に喩えられる私たちが立ち向かうべき「現在の妖怪」とはいったい何でしょうか?
「こんや」だけでなく、
いつでもやってくる 、
どこからともなくやってくる、新型コロナはそのひとつです。
・・・
※『こんや、妖怪がやってくる』君島久子文、小野かおる絵、岩波書店 2014年 (2021/1/16)