唐代の画家、韓幹(706年-783年)がモデルです。
おはなしは、作者(チェン・ジャンホン)の創作です。
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絵が大好きな少年、ハン・ガン。
家がまずしく、食堂で出前の仕事をしています。ある日、出前にでかけた画家ワン・ウェイの家で、馬の絵を描き、その才能をみいだされました。努力をかさね、めきめき、腕をあげ、ついには、宮廷絵師に抜擢されるまでになります。
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ハン・ガンの得意は、馬。
彼の描く馬は、いまにも動きだしそうです。
ふしぎなうわさが、流れました。
ハン・ガンの絵の馬は、絵から飛びだすという うわさが。
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ある晩、
ひとりの武将が、やってきます。
「この世でいちばん気性がはげしく、ゆうかんで、力の強い馬を1頭、描いてはくれないか?」
「やってみましょう」
しかし、ハン・ガンの描いた馬は動きません。
失敗作として、燃やそうとしたそのとき、炎のなかから、馬が飛びだしたのです。
武将は、馬にとびのり、闇のなかに消えていきました。
ハン・ガンの 馬は、
水も 飲まず、
かいばも 食べず、
休むことも なく、
飛ぶように 走ります。
武将は 無敵です。
矢も槍も一本もあたりません。大勝利の連続。
しかし、武将は、満足しませんでした。
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馬は、悲しくなりました。
人や馬が、傷つき、殺され、死んでいきます。
戦いは、いつまでも終わりません。
ふいに、目から大粒の涙があふれてきました。
馬は、武将をふりおとし、血まみれのまま戦場を走りさりました。
その馬は、いま、ハン・ガンの家にいます。
馬を描いた絵のなかに。
6頭の馬のなかの、1頭として。
ハン・ガンは武将に言います。
あなたの馬は、わたしの絵ののなかで、いまは静かに暮らしているのです。
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絵は、絹地に墨と絵の具で描かれています。躍動感あふれる馬。その力強さと存在感に圧倒されます。圧巻は、戦争の真実を目のあたりにした馬の絵です(上の絵)。正面をむき、わたしたちを睨みつけています。その目からは大粒の涙が流れています。大型(B4版)の絵本で、絵の迫力がさらに増しています。絵が作者の思想を伝えます。絵の力を感じる絵本です。
※『この世でいちばん すばらしい馬』 チェン・ジャンホン作・絵、平岡 敦 訳 徳間書店 2008年 2005年ドイツ児童図書賞受賞作品。 (2016/10/26)