加古里子さんの科学の絵本です。
「いえ」とは何か、 「いえ」 の本質、構造・機能の考察です。
説明のしかたが、加古さんらしい絵本でした。
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「いえがなくても、こまらないよ」
「へいきよ」
けれど、
雨にぬれたり、
太陽に照りつけられたら、困ります。
そこで、必要なのは?
屋根。
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風の日もあります。
そこで、必要なのは?
壁です。
出入り口も必要です。
戸締りも大切。
これだけで、大丈夫でしょうか?
地面の上では、寝心地がわるい。
そこで、必要なのは?
床。
風通しも大事。
窓をつくりましょう。
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家で働いたり、休んだり、寝たりするには、「いえ」は気持ちよくなりました。
でも、
食事を作るところ、 台所も必要です。
おしっこをしたり、うんこをしたりするところも必要ですね。
わらっちゃ いけません。
それは、便所です。
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人の暮らしには、そのほかに体を洗ったり、遊んだり、考えたり・・・
いろいろなことがあります。いえは、「ひとが かんがえ くふうして つくった おおきな くらしの どうぐです。くらすのに べんりな どうぐの あつまりです」。
人の暮らしに必要なこと、暮らしの継続に大切なものから、家の構造と機能を説明しています。家とは、人が健康で安全に生活できるところです。それをやさしく、おもしろく説明しています。また、説明が論理的であるのは言うまでもありません。
読者に問いかけ、呼びかける語り手の口調は、加古さんの絵本の特徴のひとつですが、「あなたなら どうしますか?」「 わらっちゃ いけません 」というような表現が、この絵本にも見られます。読者は絵本の世界にぐいぐい引きこまれます。
また、「しかし」「そこで」「けれども」「ところが」「だから」「こうして」「そして」の接続詞が、読者の興味を継続させ、文章にうねりをつくりだしています。「です」「ます」の文末表現も変化に富んでいます。
科学の絵本ですが、 「何が書かれているのか」だけでなく「どのように書かれているのか」も大切です。加古さんの表現の特色は、 実際に絵本を読んでみるとよく分かります。 読者を意識し子ども目線にたった加古さんの考えがあらわれています。
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※『 あなたのいえ わたしのいえ 』加古里子作・絵、福音館書店 1972年
【 追 記 】
「人が健康で安全に生活できるところ」と言う家の本質については、加古さんの説明とは逆に、家の属性をどんどんけずっていく説明の仕方も考えられるでしょう。屋根、壁、出入り口、戸締り、床、窓、 台所 、 便所のなかで、なくてもよいものをけずっていく方法です。洞窟などで住んでいたことも考えますと、どうしてもけずれないことは、やはり「健康で安全に生活できる」ということです。 (2020/9/13)