ふるはしかずおの絵本ブログ3

[覚え書き2]画家ラチョフの創造 -『 てぶくろ 』

33子どもたちの大好きな絵本のひとつに『てぶくろ』(ウクライナ民話、ラチョフ絵、内田莉莎子訳、福音館書店)という絵本があります。
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冬の森の中で、おじいさんがてぶくろを落とします。
 そこへ、
 くいしんぼねずみ、
 ぴょんぴょんがえる、
 はやあしうさぎ、
 おしゃれぎつね、
 はいいろおおかみ、
 きばもちいのしし、
 のっそりぐまが
 やってきて「てぶくろ」の家に住みついていくおはなしです。
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次々に現れてくる人物(動物)への興味。その動物たちが、「てぶくろ」の家に入れるのかどうかという期待と不安。期待をもって、ぺージをめくってみると、みんな「てぶくろ」の家にすっぽりと入っている驚きとおかしみ。それに、様式化された会話には、「花いちもんめ」のような遊びの要素もあって、まさに絵本の古典と言ってもよいものです。
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画家のラチョフは、新しい人物が登場するたびに、「てぶくろ」がだんだん動物たちの住処になっていく様子をうまく表現しています。
 床下をあげたり、
 はしごをつけ、
 扉をつけたり、
 バルコニーを築いたり、
 窓をつけたりしています。
 そして、煙突からは けむりまで でています。
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けむりが出ているということは、部屋(てぶくろ)の中ではストーブが焚かれているのです。「てぶくろ」の家がだんだんあたたかく小綺麗になっていく様子、また生活が築きあげられていく様子が、絵によって表現されています。「ここで くらすことに するわ」という、くいしんぼねずみの言葉が実現しています。絵に表現されたことは、文章にはないことでした。
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また、人物たちは、民族性豊かな衣装を着るなど個性的で、性格や階層がきちんと表現されています。
旅人らしいはやあしうさぎ、
おしゃれなきつね、
つぎはぎの服を着ているはいいろおおかみ、
パイプをくゆらし立派なコートを着たきばもちいのしし、
庶民を代表するようなのっそりぐま。
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これらの人物は、「てぶくろ」の家に出会う前は、おそらくばらばらな人生を歩んでいたことでしょう。このような人物たちが「てぶくろ」の家で一緒に暮らし始めるのです。つまり、「てぶくろ」の家は、ひとつの理想を象徴しています。これもラチョフの絵によって表現されたことです。 文章の持っている主題、思想を正しくとらえ、それとわたりあっている画家の主体的なあり方をここに見ることができます。
   
「主人公たちの風貌や彼らが行動する状況を視覚的具体性をもって再生することは、けっして原文からの逸脱を意味しない。補足と発展-これこそ画家の主要な課題であり、それは画家の前にきわめて大きな創造の可能性をひきだすものだ」(ラチョフ)。
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※『てぶくろ』ウクライナ民話、ラチョフ絵、内田莉莎子訳、福音館書店

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