ふるはしかずおの絵本ブログ3

『アラネア あるクモのぼうけん』- 再び美しいあみをつくる

タイトルの「アラネア」はラテン語で、クモのことです。詩人の大岡信が、翻訳をしています。

  

      ・・・

風が 吹いています。
クモの アラネアは、糸を つむぎます。

絹のような細い糸は、

するするのびて、

風をつかみ、風にのり、飛びまわりました。

 

 あちらへこちらへ ゆうらり ぶうらり

      

    

やがて、

アラネアは、だれかの庭の リラのしげみに 着陸しました。

まるまった葉っぱに もぐりこみ、

隠れ家を つくり、

日がしずむと、はじめての巣を つくりました。

 

      

アラネアは、巣をつくっては こわしました。

誰も この網を見た人は いませんでした。

でも、時折

男の子たちに ひきちぎられました。

      

    

夏の ある夜、

アラネアは 気づきました。

なにか 嫌なことが 起きつつあることに。

      

空気が 湿っておもく、網を つくることができませんでした

    

    

風は 強まり、

雷で 空がピシッと割れ、昼間のように 明るくなり、

雨が 降ってきました。

アラネアは、雨に 流されました。

    

やっとのことで、

人の家に入りこみ、壁をのぼり、一命を とりとめました。

暗がりの 洗濯場へ しのびこみました。

そこに じっと 隠れていました。

      

    

ゆうぐれ、

アラネアは、庭にでて、リラのしげみを 見つけました。

あたらしい網を はりました。

    

いっぽんを 横にわたし、枠の糸を はり、

ぐるぐる 長いらせんを はりめぐらしました。

見事な網に なるまで。

     

         ・・・

繊細なペン画です。

自然の中で生きるクモの生活が、静かに語られます。嵐のなか、雨に流され、洗濯場にじっと隠れて、生きのびる生死のドラマがありました。そして、アラネアは 再び、リラの茂みを見つけ、あたらしく、美しいあみをつくるのです。クモは苦手ですが、ここにもひとつのいのちがあると感じます。

      ・・・

※『アラネア あるクモのぼうけん』 J.ワグナー文、R.ブルックス絵、大岡信訳 岩波書店 1979年  (2024/6/6)

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