むかし、秋田に、
八郎という名の山男が、住んでいました。
八郎は、かしの木ほどもある 大男。
あーあー、おら、もっと おっきくなりてえなあー
でも、なぜ
自分が 大きくなりたいと 思うのかが わかりませんでした。
・・・
ある日、
小さな子どもが 泣いています。
聞けば、
毎年、海が荒れて、
村の田んぼが、しお水をかぶって、だめになってしまう
と言うのです。
・・・
八郎 も よ、
おっきな おっきな 山男だったども、
つい、 かなしく なってせ、
石うす みてえだ なみだこ 一つぶ、
ぽろーり と こぼして な・・・
・・・
八郎は、
村の人たちを 助けようと、
山を持ちあげ、 海の中に放りこみ、海の水を せき止めます。
・・・
こんどは、
おこった海が、 むくむく、 もくもく押しよせてきます。
八郎は、 村を守るために
両手を広げ、 波をむねでおし返し、海のなかへ、ぐっくと 入っていくのです。
・・・
わかったあ !
おらが、 なしていままで、
おっきくおっきく なりたかったか !
おらは、 こうして おっきく おっきくなって、
こうして、 みんなのため
になりた かったなだ、 んでね が、 わらしこ !
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村の人たちを 助けたい、
泣いてる 子どもの力になりたい、
八郎は、そのために 海に 沈んでいきました。
・・・
大きくなること。
それは、みんなのために なることである、と いうことに 目覚めた のでした。八郎 の 行動は、子どもの涙を ぬぐってやりたい、という思いからでした。彼のやさしさからでた行為です。ひとりの 子どものためにした 行動が、すべての村人を 生かすことになりました。
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海に 沈んでいく 八郎。
八郎は、死んだのでしょうか。
それとも、永遠に 生きているのでしょうか。
・・・
滝平二郎さんの版画は 文章とひびきあっています。また、文章も力強い日本語です。秋田弁の文章と 版画は、がっぷりと四つに組んでいます。堅固な建物をみるようです。読みかたりのむずかしい絵本ですが、挑戦してみてください。
お二人の絵本には、
『 三コ 』 ( 福音館書店 )、
『 モチモチの木 』( 岩崎書店 )
『 花さき山 』( 岩崎書店 )
『 半日村 』( 岩崎書店 )などがあります。
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※ 『八郎』 斎藤隆介文、 滝平二郎画、 福音館書店 1967年