すいかが、語り、動きだす、ナンセンスの絵本です。
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山に囲まれた ひろい畑に
30000個のすいかが のんびり くらしていました。
ある日、からすが 言います。
「もう食べ頃だね」
「かわいそうに。この こたちは たべられてしまうなんて」
「ねえ。みんな きいた?
わたしたち たべられちゃうんだって!」
「にげようぜ」
「くらくなったら にげるぞ」
夜中に 脱走する すいかたち。
「さあいくぞ みんな つづけ!」
30000個 の すいかは、山を登ります。
海にしずむ 太陽を見た すいかは、
「そうだ! おひさまに ついていこう」
峠を ころがる すいかたち。
ごろん ごろごろ どどどどど。
すいかの 雪崩が おきました。
ぱっかーん ぱっかーん。
破裂した すいかが 集まって、
大きな池が できました。
きつね、たぬき、さる、しかが やってきました。
その時です。
池が 真っぷたつに われ、
舌が のびてきました。
「ひぇー ゆるして ください!」
どうぶつたちは 逃げて いきました。
すいかの池ではなく、おおきな くちびるだったのです。(笑)
くちびるは べったん べったん 丘を登り、
海を 見ました。
「やったー! みずだ、みずだ」
くちびるは、海にとびこみ、おひさまを めざして 進んでいきました。
つぎの日、
おひさまが すこし、変です。すいかのように 見えます。
そして、おいしそうに 見えます。
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「ねえ。みんな きいた」「にげようぜ」「そうだ! おひさまに ついていこう」と人物化したすいかたち。言葉をはなし、意思をもち、行動し、そして「おおきな くちびる」に変身する! そして、海にとびこむくちびる。最後の太陽は、すいかのように見えます。起承転結の構成になっています。
「おおきな くちびる」になった、すいかは、異様で不気味で、すこし滑稽です。まさにグロテスクです。『したのどうぶつえん』『あいうえおん』(くもん出版)の作者、あきびんごさんのナンセンスな世界が広がります。
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※『30000このすいか』 あきびんご作、くもん出版 2015年 (2023/5/26)