ふるはしかずおの絵本ブログ3

『 綱渡りの 男 』- ここでは、ぼくひとり

ふふ
1974年8月7日 ニューヨークの世界貿易センタービル。
ツインタワーで綱渡りをした男、
フィリップ・プティ
の実話です。
・・・
プティは、
一輪車に乗ったり、
たくさんのボールで お手玉をしたりする大道芸人です。
一番の得意は、ロープの上を歩いたり、踊ったりすることでした。
ノートルダム寺院のふたつのタワーにロープを張り、綱渡りをしたこともありました。
・・・
かれは、ニューヨークのツインタワーで、綱渡りをしようとします。
でも、どうやって。
けっして許可はおりないでしょう。
夜の間、
友人とともに、建設作業員のふりをして、
屋上に行き、鋼鉄製のロープを苦労してわたしました。

よく朝、
フィリップは、
8メートル半あるバランス棒を持ち、綱をわたります。
高さ411m、地上110階
風でからだが揺れます。
でも、すこしもこわくありません。
ここでは、ぼくひとりなんて幸せで、自由なんだろう
・・・
かれは、約1時間、綱の上を、
前に進み、
後ろにさがり、
踊ったり、
走ったり。
最後は、観客にこたえるように、
膝まずいてあいさつしたりしました。
下は街と港。
空が彼を包んでいます
カモメが飛んでいます。
333
地上に戻ると、
逮捕されますが、
裁判官は
街の子どもたちのために、公園で綱渡りをするようにと、判決を言いわたします。
・・・
そして、2001年9月11日を迎えます。
ふたつのタワーは、いまはもうありません。悲劇的な最後を迎えた世界貿易センタービル。破壊された事実と重ねあわせるとき、プティの行為は複雑な色合いを見せます。綱渡りの、生と死の隣り合わせ。生のない確実な死・多くの人の不慮の死(9.11)。アメリカ同時多発テロ事件を知る読者にとって、プティの行為と多くの人の死が時間を超えて重なり、深い意味を感じさせます。2004年のコルデコット賞受賞作品です。
・・・
※『 綱渡りの男 』 モーディカイ・ガースティン作・絵  川本 三郎訳 小峰書店 2005年
【 追 記 】
フィリップ・プティのこの綱渡りは、ロバート・ゼメキス監督の映画『 ザ・ウォーク 』(2015年公開)とイギリスのドキュメンタリー映画の『 マン・オン・ワイヤー 』(2008年)にも描かれていることを知りました。後者はアカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞(2009年)を受賞しています。どちらも見ていないのですが、これらの映画があることを紹介します。  (2018/9/15)

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