修業中の「おいら」が見た、
文化文政期の江戸の芝居小屋(中村座)の世界です。
歌舞伎に対する 役者、裏方、庶民 のエネルギーと熱狂がつたわります。
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歌舞伎興行の始めから終わりまでを、15枚の絵で構成しました。
15の絵の表題を書いておきます。それが絵本の内容を具体的に紹介することになるでしょう。
船乗り込み
大道具をつくる
芝居を支える人たちの工房
楽屋での惣ざらい
いよいよ初日、木戸前の賑わい
出を待つ役者たち
幕が開く時
観客の頭上に橋を架ける
移動する劇空間
奈落で働く
幕間の楽屋
川を船で、陸を駕籠で
宙乗りの立ち回り
興業は大当たり、楽屋で祝宴
祝祭 は終わった
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「幕が開く時」の場面の文章を引用します。
「役者さんはそろった。ツケ打ちさんも持ち場についた。長吉さんがチョンチョンチョンチョンと澄んだ音で柝を打つと、幕がひかれていく。おいら は師匠の言いつけどおり、幕だまりにきちんとすわってじっと舞台を見る。今は、これがおいらの修業なのだ。」
( 上の絵の左隅にいる黒子が「おいら」)
江戸時代の芝居小屋がどのようなものであったのかよくわかります。劇場に橋ができあがる大仕掛けは、観客の度肝をぬいたことでしょう。舞台の早替え、まわり舞台、宙乗りなど観客を楽しませようとする仕掛けや趣向がいっぱいの世界、歌舞伎役者、裏方、観客が一体となった世界です。私たちもこの世界にいるような感覚になります。まさに「祝祭」という言葉がぴったりときます。
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歌舞伎の研究者・服部幸雄さんと一ノ関圭さんが8年の歳月をかけて、つくりあげた労作です。細密な絵で江戸歌舞伎の世界がしっかりと再現されています。また、巻末の解説が充実していますので、歌舞伎に詳しくないわたしも十分楽しめました。解説と照らしあわせながら、絵を読むという楽しみがあります。
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※『 夢の 江戸歌舞伎 』 服部幸雄 文、一ノ関圭 絵、 岩波書店 2001年 (2018/10/26)