ふるはしかずおの絵本ブログ3

『 エリカ 奇跡のいのち 』- わたしを「生」にむかってなげた母

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アメリカの中学校教師の 私。
私は、ドイツのローテンブルク市で ひとりの女性と出会いました。
その女性、ユダヤ人のエリカ
私に話してくれた
わたし( エリカ )の物語です
・・・
1944年 わたし( エリカ )は うまれました。
でも、誕生日はわかりません。
強制収容所に入れられる直前に 助けられました。
わたしは、
そのとき、2~3か月のあかちゃんでした。
あかちゃんの「わたし」が、なぜ助かったのでしょうか。
・・・
わたしは、
よく想像するのです。
わたしの家族のことを。
お母さま、
お父さまが、
戦争中に体験した苦難な生活を。
いい場所に移すと言われ、
牛をはこぶ貨車にのせられ時の 二人のこころを。

何時間も ひしめき合う貨車のなかで 立ちつづけたことを。
お母さまが、「ゆるしてね、ゆるしてね、ゆるしてね 」と 言ってくださったことを。
そのとき、
涙をながし、神さまにお祈りをしたにちがいないわ、と思います。
・・・
列車が、スピードをおとした時、
二人は、いまだと思い
貨車の天井ちかくの ちいさな窓を見上げ
とげのある はりがねを押し広げたのでしょう。
お母さまは、
わたしを 高く持ちあげ
光がさしこむ ちいさな窓に近づけたのでしょう。
そして、
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お母さまは、わたしを 汽車から外へ ほうりなげたのです。・・・
お母さまは、じぶんは 「死」にむかいながら、
わたしを「生」にむかってなげたのです
。 (上の絵)

拾われた わたしは、ある女の人に育てられました。
誕生日を決め、
エリカと名づけ、
家族のひとりとして育ててくれた やさしい人でした。そのころ、ユダヤ人の子どもを預かることは、命にかかわることでしたのに。
・・・
わたしは、21歳にときに結婚し、
3人の子どもが生れ、いまでは その子たちにも子どもがいます。いま、わたしの家族の樹は、ふたたび根をはり、大きくそだっています

エリカのことを通して考えました。
赤ん坊を貨車からなげ捨てた 両親のこころを。どのような気持ちだったのでしょうか。そして、エリカを貨車から投げた 両親の行く末を。戦争中のユダヤ人のことを。毒ガスなどで大量虐殺されたことを。戦争で亡くなった人とその家族のことを。
( 考えることを迫られます。)
生き残ったエリカ、両親のいないエリカの戦後の人生を考えます。そして、エリカを育てたドイツ人の女性のことを・・・ 想像をこえるできごとです。想像力が追いつきません。読むのも辛いおはなしですが、わたしたちは、エリカの人生と向き合わなければなりません。
・・・
※『 エリカ 奇跡のいのち 』 ルース・バンダー・ジー作、ロベルト・インノチェンティ絵 柳田邦男訳  講談社 2004年  (2018/6/1)

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