ふるはしかずおの絵本ブログ3

『 よあけ 』-なんと美しい時間でしょう

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夜明け前の
みずうみが 舞台です。
静寂な 世界ですが、しだいに 絵本と読者の間に ドラマがおこります。
・・・
音もなく、静まりかえった みずうみ、
寒く しめった みずうみ。
湖畔の木の下で、おじいさんとまごが 毛布で寝ています。
みずうみに 写る月。
そよ風が ふき、
さざ波が たち、
靄が こもります。

こうもりが 空をまい、
蛙が みずうみに とびこみ、
鳥が 鳴き、どこかで鳴きかわす。
・・・
目をさます ふたり。

ふたりは、
水を くみ、
火を たき、
毛布を まとめ、
ボートを みずうみに 漕ぎだしていきます。
・・・
そのとき、
やまとみずうみが みどりになった

水彩で描かれた、これだけの 絵本です。
でも、
夜明け前の 静寂さのなかに、私たちの感覚・感情・想像に 訴えるものがいっぱいです。
空気の 冷たさ、
毛布の 温もり、
そよ風。
光の微妙な 明暗、
動物たちの 動き、音、鳴き声、
朝日に照らされた 色鮮やかな 山、
そして、目にみえない 時の流れ。
これらは、あこがれとなって、おとなの読者のこころを 波立たせます。
グリーグの『朝』を聴いてみたくなります。
・・・
作者の紹介文によれば、唐の詩人柳宗元(773-819)の「漁翁」を モチーフにした絵本だそうです。

漁翁      柳宗元

魚翁夜傍西巖宿
曉汲清湘燃楚竹
煙銷日出不見人
欸乃一聲山水綠
迴看天際下中流
巖上無心雲相逐

漁師のじいさんは、夜は西の岩陰ですごし、
夜明け方には清らかな湘江の水を汲んで竹を燃やす。
もやが消えて日が出たと見る間に山と水の緑が現われた。
もはや人かげは見えず、漁師のうたう船歌が聞こえるだけ。
はるかに天のはてをかえり見つつ流れを下れば、
岩の上から雲が無心に迫ってくる。
松枝茂夫編 『 中国名詩選(下)』 岩波文庫

※「よあけ」 ユリ・シュルヴィッツ作・絵  瀬田貞二訳  福音館書店  1974年  (2016/5/1)

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