『 ふしぎなふしぎな ながぐつ 』は、ファンタジーの絵本です。
ファンタジーの創り方について書いてみます。
おはなしは、このようにはじまります。
かおるの うちの かきねのしたに 小さな きいろい
ながぐつが ひとつ ころがっていた。
「あれ、この ながぐつ、だれのだろ。」
これから、ながぐつが 大きくなり、
足をいれると、ながぐつと足が消えてしまう世界が生まれます。
でも、どのようにして、ファンタジーは生まれるのでしょうか。
ながぐつに焦点をあて、要約ですが、作者のマジックを見てみましょう。
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「あかちゃんの ながぐつかな。」
かかとの ところに、きずが ありました。
かおるは ながぐつを 垣根のうえに ふわりとのせました。
きいろい 花のようです。
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つぎの日、
「おかしいな。あの ながぐつ、きのうより すこし 大きかったみたいだぞ。」
でも、不思議とも思わずに、忘れてしまう かおるです。
つぎの日、
「おもいきって、ごみばこに すてちゃおうかな。」
すると、また、へんなことに 気がつきました。
大きく なっているのです。
「へーえ。こいつ、ちがう ながぐつなのかあ。」
つぶやきながら、ながめました。
でも、きずまで そっくり 大きくなっているのです。
「よし、はいてみようっと。」
ながぐつに ひだり足を入れると、不思議なことに、ながぐつとかおるの足が消えたのです。
このあとは、ファンタジックな世界と、わくわく感をを楽しんでください。
つぎの日の朝、お父さんのながぐつみたいに なります。 また、つぎの日は、 ばけつほど大きくなった ながぐつ。つぎは おばけみたいに 大きくなってきます。もぐりこむと、ながぐつも かおるも消えてしまいます。
そして、今度は どんどん 小さくなって・・・
作者のマジックは、是非、絵本をお読みください。また、小さく小さくなったながぐつは、いまでは木の箱の中。かおるは、いまも開けないまま、木箱を机の奥にしまっています。
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もしかしたら 起こるかもしれないと読者に思わせていく虚構の方法は、一体なんだったのでしょうか。それは、ながぐつの描写のくりかえし、細部のリアリティのつみかさねと、非現実な世界を創造する 読者のイマジネーションです。
ながぐつは、はじめ、かかとにきずがある、赤ちゃんのながぐつのようでした。それから、すこし大きくなったような ながぐつへ、つぎは、違うながぐつなのかなあと思わせる ながぐつへと変化していきます。リアリティを積み上げていくことで、ファンタジーの世界に、読者は抵抗なく入っていくことができます。また、ファンタジーを楽しみたい読者がいます。読者の想像力が、ファンタジーをつくりだします。
作者の佐藤さとるさんの言葉です。
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ファンタジーの手法は、リアリズムで、目に見えるように描かれなくてはならない。
仕掛けというのは・・・細部のデテールのリアルな積み重ねのことで、これが非現実の中に現実を生んでいく。読者は、まるで魔法をかけられたように、あり得ないでき事、情況、状態を受け入れてしまう。ようするに人間の想像力は、適切な刺激と情報を与えられると、目に見える現実だけでなく、見えないもう一つの現実(じつは非現実)をも、やすやすと創りあげる能力を備えているのである。ファンタジーは、基本的にこの能力によって成りたっている。
『ファンタジーの世界』 講談社現代新書
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※『 ふしぎな ふしぎな ながぐつ 』 佐藤さとる作 村上勉絵 偕成社 1972年
【 追 記 】
佐藤さとるさんと村上勉さんの絵本には、『 おおきなきが ほしい 』(偕成社)もあります。主人公のかおるのイマジネーションが、こうなってほしいおおきな木を創造します。 (2016/8/31)