『 どうすれば いいのかな 』のくまくん(上の絵)です。
くまくんに登場してもらい、語り手と聞き手の「対話」と読者の参加について書いてみます。
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絵本を開くと、くまくんが、おかしなことをしています。「しゃつを はいたり」「ぱんつを きたり」「ぼうしを はいたり」しています。語り手は言います。
しゃつを はいたら どうなる ?
どうすれば いいのかな?
そうそう、
しゃつは きるもの。
ぱんつを きたら どうなる ?
どうすれば いいのかな ?
そうそう、
ぱんつは はくもの
語り手は「しゃつを はいたら どうなる ? どうすれば いいのかな ?」と尋ねていますが、誰に向かって言っているのでしょうか。
それは絵本の中のくまくんです。
※絵本の中のくまくんを「聞き手」と言っておきます。
「そうそう、しゃつは きるもの」と言う語り手の言葉を受けて、聞き手のくまくんは、ちゃんとシャツを着ています。くまくんは黙っていますが、行動で応えています。ふたりの応答する姿があります。
※これを「対話」と言っておきたいと思います。
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「語り手」の言葉は、ひとりごとを除くと、一般に作中に想定される「聞き手」に向かって語られています。言い換えれば、おはなしは語り手と聞き手の「対話」が描かれているとも言えます。しかし、聞き手の言葉が表に出ることはなく、語り手の言葉だけが作者によって書かれています。この絵本の場合、聞き手のくまくんが絵に描かれています。
※ ※ ※
こんどは 読者 のことです。
読者は、語り手と聞き手(くまくん)の「対話」を見たり聞いたりしています。
しゃつは 着るもの、
ぱんつは はくもの、
ぼうしは かぶるもの。
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読者は、くまくんがどうすればいいのかを知っています。ですから、くまくんの行動がとても可笑しく感じられます。読者の常識とのズレが笑いをうみます。「あんなことしている」「こんなこともできないんだ 」「おかしなくまくん」「ばかだなあ」、このような読者の声が聞こえてきそうです。
※「人物は知らないのに、読者は知っている」のパターンです。
読者は、語り手とくまくんの やりとりを、ヤキモキしながら聞いたり、見たりしておはなしに参加します。
しかし、読者は、聞き手になって、おはなしに参加するだけではありません。読者は、語り手になったり、作中人物になったり、はては作者になっておはなしに参加しているように思います。子どもが絵本をひとりで読んでいるところを見ますと、こうした読者の多様な姿がわかるように思います。それは、おはなしに主体的に参加している姿です。
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※『 どうすれば いいのかな 』 渡辺茂男作、大友康夫絵、福音館書店
【 追 記 】
本文中にこう書きました。
「おはなしは語り手と聞き手の「対話」が描かれているとも言えます。しかし、聞き手の言葉が表に出ることはなく、語り手の言葉だけが作者によって書かれています」。
では、人物の言葉(「 」)はどう解釈したらよいのでしょうか。作中人物の言葉、例えばスイミーの「ぼくが めになろう」を引き合いにしますと、「ぼくが めになろう」とスイミーは言ったと語り手が聞き手に向かって語っていると言えます。おはなしとは語り手と聞き手の対話であること、また語り手をしっかりと意識して読みかたることが大切です。