えほんの すきなひとに!
表紙を開くと、最初にであう言葉です。
また、おおきなおとしものって、なんでしょう?
テーマでもあり、読者への仕掛けでもある 題名です。
・・・
おばさんが、
1羽のめんどりと 暮らしていました。
めんどりの 産んだ たまごが、12個になったとき、おばさんは、町に売りに行きます。
・・・
たまごの入った 籠は、頭の上。
( ここが 伏線 )
こころは うきうき。
夢が、ひろがります。
以下は、彼女の想像・空想・妄想です。
たまごを 売ったお金で、めんどりを 2羽 買うわ。
そうしたら、たまごは、いっぱいに。
今度は、めんどりを 3羽 買うわ。
たまごは、もっと いっぱいに。
おおきな 鳥小屋を たてなきゃ。
なんと わたしは りこうもの!
ひつじも 飼うわ。
がちょうも、
豚も、
牛も。
わたしは たいへんな おかねもちよ。
そして、召使のいる おおきなお屋敷に 住むわ。
すてきな おとこのひとと 結婚し、
そのひとは、おおきな農場の ご主人さま。
( みんな空想です )
わたしは おおいばり!
みんなのまえで はなを つーんとうえにむけて あるくのさ!
彼女は、本当に 鼻を上に むけてしまったのです。
頭の上には?
( たまご! )
そう、たまごが ありました。
ぴっしゃ-ん!! ・・・
のこったのは、いちわの めんどりだけ。
おきのどく。
捕らぬ狸の皮算用。わかっていたけれど、おかしいおはなしです。また、空想なのに、その空想が、妙に現実的なところも笑えます。でも、おばさんの表情は、生き生き。想像する姿が、かわいらしくも感じます。おおきなおとしものの意味もわかりました。たまごだけではなかったんですね。 落としたものは。
ところで、この絵本は、実際に読んでみることで、さらに魅力を発揮する絵本です。
「たまごは おかねになるわ/まいにち たまごを うむわ/もっと いっぱいになるわ/なんと わたしは りこうもの。」
語り手は、途中から、おばさんに同化していきます。したがって、絵本の読み手も、このおばさんになって読んでいくことになります。おばさんと語り手と読み手は一体化。三位一体。ここが楽しく面白いところです。読み手にとっても、聞き手の子どもにとっても。この絵本のように、声にだして読むことで、絵本は魅力をさらに発揮します。「えほんの すきなひとに」は、この意味かもしれません。
語り手にとって、ことばは、作曲家にとっての音符、
画家にとっての絵の具と同じです。
アイリーン・コルウェル
※『 おおきな おとしもの 』 H.C.アンデルセン原作 ジャン・ウォール文 レイ・クルツ絵 ともちかゆりえ訳 ほるぷ出版 1979年
【 追 記 】
アイリーン・コルウェル (1904 – 2002) の言葉は、『 子どもたちをお話の世界へ 』(松岡亨子ほか訳 こぐま社)からの引用です。
「ことば」は創造の素材であり、読みかたりのてがかりです。文章と絵を手がかりとして、絵本に命を吹きこみ、その世界を創造するように読んであげてください。コルウェルさんの言葉を敷衍すれば、語り手は、絵本の演奏家です。 (2016/9/25)